第2話

風が僕の頬を叩いた。

目を覚ますと、紫色の空に、白い鳥が数羽飛んでいた。


僕は仰向けで、未来はうつ伏せで倒れている。

あの時、屋上から飛べば、よくある稚拙な物語のように互いの体が入れ替わるかもしれない、もしかしたら、僕たちは異世界へと・・・なんて少しだけ思っていた。

しかし、現実は残酷で僕は助かり、未来は死んだ。


ただ、それだけのいらない奇跡だった。


未来は、首の骨を折ったらしく、背中に顔が向いていた。

目はカッと見開き、鼻と口から糸のような血を流しているその顔は、今生に恨みを残した夜叉のようだ。


僕は、起き上がると自分の体を今一度確認した。

腕や膝にすり傷はあるだけで、特段、大きな怪我はない。


一緒に死のうと約束したのに、君を裏切ってしまったね。


いや、今からでも遅くはない。

もう一度、屋上から身を投げよう。


僕は立ち上がると、もう一度屋上へと走った。

既に夜が明け始め、町には蛍火のように灯りが、ぽつぽつと輝いている。


目を覚ましかけた世界は、とても美しく、白々とした早朝の張りつめた空気が辺り一面に漂っていて、紫煙の空には深い雲が渦を巻き悲しい色をしていた。


今から、いくね、待ってねね

僕は見下ろすと、背中に氷水でもあてられたような気持ちになった。


未来の死体がない。

そんなはずはなかった。しかし、何処を探しても、未来のあの姿は見つける事ができなかった。


死んではいなかったのか?

形骸化された世界の中で、僕が茫然と立ち尽くしていると、何処からか風を切る音がした。


僕は振り返る。

背後から黒い翼を羽ばたかせた少女が近づいてきた。

そして少女と目が合うと、何だか僕はとても悲しい気持ちに包まれた。


どうしたの、未来?

その姿・・・・。


生まれ変わったのよ・・・・。

未来は、水平に吹く風のような声でそう言うと、漆黒の勾玉のような視線を向けてくる。

僕はがっくりと項垂れた。


生まれ変わるなら、もっと違う生き物になってほしかった。

よりによって、僕の天敵の鴉なんて・・・・。
















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