第2話

「人を殺そうと思ったことがある」そう鷹志が一回だけ呟いたことがある。実は家飲みの、しかも午前3時過ぎのことなので、思い違いで「人をあやそうと思ったことがある」だった可能性もある。鷹志は冗談を云い、決して羽目は外さず、けれど酒を呑むときは一度あった先輩でも臆することなく参上するタイプの人だ。居酒屋でトイレに行くといい、しばらく帰ってこないと思ったら、別の知らない大学生と呑み交わすことさえあった。だからこそ、何故冒頭のことになったのか、間違えがなければ、「殺す」と云っていたのだ。そしてそれは、僕でも酔いが冷めてしまうほどに何故かリアルに感じられた。幸子という女性がいる。専門学校で美容師を目指している女性だ。実は周りには知られていないが、鷹志と幸子は恋人同士だった。そして鷹志はこうも云っていた。「幸子のためなら何でもできる」と。もしかしたら、幸子は儚い男をつなぎとめているのではないかと時折思う。

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