おそばにパセリ

坊主方央

第1話〜おそばにパセリ

時計は定時を余裕で越えている、もう時間は22時を過ぎているにも関わらず俺は会社にいる。今帰る所だが、夕食を食べていないので腹が減っていた。


「あー腹減ったなぁ…またあそこにいくか。」


あそこというのは家の新しく出来た最寄り駅で見つけた汚い蕎麦屋で、目印にドデカい骸骨のマークがある。周りの店に比べて古くボロいが蕎麦が今まで食べた蕎麦で1番美味い。


何故今まで気づかなかったのか分からないがそんな事はどうでもいい。同僚や後輩に聞いても誰も知らない…あの駅で降りる奴は沢山いるのになぁ、不思議だ。


つまるところ、俺だけが知っている名店だという事だ。それだけで何だか優越感があるがあんなに目立つ所にあんのにな。



「さっさと行くか。」


会社から出てあの蕎麦屋に向かうため電車に乗り込んだ。こんな夜中なのに人混みが凄い…いや、夜中だからこそ沢山いるのか。


俺と同じように会社の犬もいた、どいつもこいつも死にかけの顔だった。さっさとあの蕎麦屋に行こう。電車から降りてあの蕎麦屋の前に来た。


いつも通りボロく、汚い。周りの店と比べてもその古さは歴然だ。今日で4回目の来店だがあまり客が多い日はみたことない。


本当にこんなんで経営出来てんのが謎だな…俺は扉を開けて店に入り、適当な席に座った。今日は俺以外にも1人いるみたいだ。パッと見50代の男で、ホームレスのような格好をしている。


「蕎麦1つ」


ここの店主は無口で声を聞いたことがない。そもそもここの店主はマスクに帽子に長袖長ズボンという肌を見せない服装で、これは俺の予想だが大きな火傷やそういう宗教に入っているのではないかと思う。


店主が頷くと、即座に蕎麦を作っている。俺はその待ち時間にスマホをいじっているが良いニュースも悪いニュースもないつまらない事ばかりだった。


(やることもないし店主に話しかけてみるか?いや、そばを作ってる最中でそれはうざったらしいよな。)

(お、もう食べ終わったのか。)


俺以外の1人が食べ終わり代金を支払った、そして店を出ていく。コイツも中々の名店を知っているもんだと俺は勝手ながら感心した。


店主は黙々と蕎麦を湯掻ゆがいている。正直、ここの店主は好きではない。ここの蕎麦がとてつもなく美味しいから来ているだけなのだが最近とても気前よくサービスしてくれる。


前はエビの天ぷらを3匹もオマケでつけてもらった。つぎは何がくるのだろう、俺はそれの事で頭がいっぱいになっていた。


その人の噂をしていると本人が来ちまうって話聞いたことあるよな?それが食べ物で来ちまった、俺がずっと考えていると蕎麦が来たそれもエビ3匹とおむすびが1つオマケでだ。


(なんてラッキーなんだ、おむすびもついてくるなんて!……でも、なんで蕎麦にパセリがついているんだ?)


蕎麦の真ん中には海苔の代わりにパセリが置いてあった、多分だが海苔がなくなったのだろう。別に海苔がなくたって味が変わらないからいいか。


「ごちそうさま、今日も美味かったよ。」


食べ終わり、代金を支払って店を出ようとすると扉に描いてあるドデカい骸骨のマークが俺を睨んでいる気がしてさっさと家に帰ろうと思った。


少し歩いて、蕎麦屋のある所を振り返って見てみるとそこには壁があった。俺の年で老眼は早い、蕎麦屋の所へまた行ってみるとやっぱり壁だった。


「どういう事だ…?ここに蕎麦屋があったじゃないか?」


その時、スマホが振動した。スマホを見てみるとこの駅で人身事故があったらしい。人混みに押されて線路内に落ちてそのまま電車に轢かれた。その被害者は53歳のホームレスとスマホには書かれていた。


「あの人、まだ1回目なのに。お前はとても運が良かったな。」


ふと、声がした。隣に突如として現れたのは店主だったが店主の顔は人の顔ではない。皮膚や筋肉なんてものはなく、葬式で焼かれた遺骨にそっくりだった。


俺はその気持ち悪い骸骨に腰を抜かした。しばらく、動けなかった。





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