第三回【ロープレ】2023年

幼少にして大黒柱の男の子

 幼少期とは12歳くらいまでをさすことが多く、それに照らし合わせれば小学6年生の和真はギリギリ幼少と呼べる存在だった。病弱な両親に変わって家計を支え、幼い弟妹たちの面倒も見ている彼の評判は良く、『小さいのに偉いわね』と、よく近所の主婦たちに噂されている。しかし和真自信は自分を幼少だと思ってはいない。なぜなら彼は転生者。150センチほどの身体には異世界で大賢者と呼ばれ千年を生きた化物が宿っているのだから。


 ◇


「あのぅ、和真くん……だよね?」

「いいや、我の名はエルドライン・フォン・サイレントロード。人の子よ、我に何の用だ」


 いやいや、お前こそ人の子じゃないかと激しく思った。申し遅れたが私は関川二尋。神の使徒で、一流の転生斡旋人でもあり、悠久の時を生きている。彼が大賢者なら私は大天使。どこにも引けを取る箇所は見当たらない。なんなら股間の大黒柱は一般男性の平均を凌駕する超大黒柱で、人間如きに偉そうな態度を取られる筋合いはない。とはいえ私ほどの人格者になればそんなことをおくびにも出さずコミュニケーションをはかるのも容易い。


「ああ、すまんね。まさか未だに過去の大賢者風を吹かしているとは思わなくて。私は転生斡旋人なのだけど、12年経ったからさ、ほら、アレを払ってもらおうと思って」

「アレか……」

「そうアレさ。分かるだろ?」


 転生12年目ごとに発生する転生税。転生の際に貸し与えた《世界を渡る魔力》をリボ払いでちょっとずつ回収し、転生者が死ぬまで搾り取るのも私の仕事に含まれる。


「しかしアレを払うと我の家族が息絶えてしまう……」

「いや何言ってんの? ナチュラルに家族から魔力を奪う方向で考えないでほしいな。自分のことは自分で解決しようよ」

「そこに愛はあるんか……」

「アイフル関係ないでしょ。借りたら返す、それ世界の常識じゃん」

「しかし我の魔力を払うと病弱な両親と幼い弟妹に代わって行使していた『ご近所さん洗脳魔法』が一時的に解け、『作りすぎたからどうぞ的なご近所からの差し入れ』が滞ってしまい、家族を飢えさせることになる……」

「お前、元大賢者だからって何してんだよ!」

「全ては家族のために」

「良い感じに聞こえるけど、有り体に言って洗脳とか外道のやることだからな。普通に家計を支えろよ、バイトとかやれよ」

「我は小学生なので、バイトはできん!」


 もっともだなと思う反面、なんとも言えない気持ちになった。確かに小学6年生に労働を強いることはできない。しかし彼は元大賢者。洗脳なんてせずとも、もっと色々できるのではなかろうか。


「物は相談だが関川」

「うん?」


 呼び捨てにされたことを気にしてない風を装い、私は話を聞く態勢に入る。こういった温厚な態度で人々と接することがパブリックイメージを上げるコツなのだ。


「3日だけ待ってもらえないだろうか」

「その3日で何が変わるのかね?」

「全てのご近所さんから一週間分の差し入れをもらえるよう洗脳を強化する」


 そこが落としどころか。魔力の取り立ては何も彼だけにしていることではない。ここであれやこれやと問答するのは時間の無駄だ。


「分かったよ。3日だ、それ以上待てない」

「感謝する、人の子よ」


 だから人の子じゃないし、人の子が言うんじゃないよ! と思ったが、私は敢えて言葉にしなかった。


 3日後、無事に魔力の回収を終えた私は天界でバカンスを楽しんでいた。未来視によると数年後、和真くんのご近所さんを中心としたコミュニティが宗教国家を形成し、日本から独立することになるのだがそれはまた別の話。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る