「枯れ果てた土地の血と盾ハレカ」

 彼女の村は、一夜にして滅びを迎えた。

 一人を除き、生者はなく。残されたのは彼女と、多くの血を吸った故郷の大地のみ。

 踏み荒らされた畑に作物を植える者も、焼け焦げた家屋に住む者も、もういない。

 けれど、きっとやつらはやってくる。今度はやつらの血で、この土地を染めるのだ。

 少女は落ちていた槍を握り、決意した。


 ある日、通りがかった旅人が聞いた。

 何もない場所でたった一人、なぜ槍を振るうのだと。

 この土地は、何もかもが枯れている。緑もなく、家もなく、人もいない。守る意味など、ないではないか。

 女は答えた。ここだけが自分の居場所であり、私は故郷を守る盾なのだと。

 

 旅人は彼女を憐れんだ。たとえそこが故郷であろうと、不毛の土地になんの希望があるだろうか。

 もはやそこに芽吹くものはなく、憎しみと槍が流す血だけが、彼女と乾いた大地を潤している。

 女の槍と瞳は、ずっと前しか見ていなかった。


 だから旅人は伝えたのだ。振り返って、遠くの景色を見てみろと。

 女が見ると、茶色い禿げ山のてっぺんに、一本の白い木が生えていた。それは木ではなく、街の塔だと旅人は言った。

 あの山を越えた先に、街がある。枯れた大地しか前にないならば、いっそ後ろへ進んではどうだろう。

 その日から、旅人も女も、孤独ではなくなった。


 前へ進むべき道を見失ったならば、時に後ろを振り返ってみるといい。

 新たな気づきも、隠されたものも、見つかるかもしれない。 

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