第4話 女神さまは、やっぱりえろえろでした

「あ、こんにちわ、ぼくはクリスです」

「前世で勇者をやってましたけど、魔王と相打ちになって死んじゃったので?」

「いまはこっちの世界で、男のコに転生しています♡」


 とまぁ、思わず現実逃避しちゃうぼく。

 というのもここ数日、ショックなことが多すぎたから……


「ええと、まずぼくの前世が勇者で、その記憶を取り戻しちゃったこと」


 これは……思い出したところで、どうしようもないというか。

 そもそも魔王も死んじゃったので、いまは比較的ではあるけど平和な状態だし?

 もちろん魔物や魔族はいるけれど、魔王のいない状態では脅威はかなり低く、

 人族の軍隊でもじゅうぶん対応はできるんです。


「それに、勇者でいた時間よりも、いまのぼくである方が長いしなぁ」


 じつは前世のぼくが勇者をやっていたのは、ほんの3ヶ月くらいだった。

 アイナママたち、3人の従者と引き合わされたあと、

 1週間くらいの訓練と模擬戦をやって、すぐに討伐にでることになったんだ。


「ゲームなんかだと、ちょっとのお金と最弱の武器をもらうところだけど」


 ぼくの場合はまるで逆で──

 装備も得られるかぎりの最高のものがもらえたし、お金もほぼ無制限。

 毎日3食の食事や、寝泊まりするためのキャンプとかも……

 可能なかぎりお世話してくれる兵士さんたちが付いてきたし、

 移動手段も、馬車、船、気球とかが、いつも用意されてた。


「だからあれは【冒険】というより……業務?」


 そんな手厚い王家からのサポートに応えるべく、

 ぼくはもくもくと魔物を狩り続けるという……

 ひたすら効率優先の、わりと殺伐とした旅だった。

 おかげでいわゆるゲームとかによくある、レベル上げ、お金かせぎ……

 それにアイテム探し、謎解き、お使いイベントとかはほぼナシ。

 そのけっか……召喚からわずか3ヶ月で、魔王の玉座にたどりついたんだ。


「まぁ、相打ちになって死んじゃったけどね」

「でも恋人だったアイナママは、悲しんだだろうなぁ……うぅ」


 戦闘不能になったほかの従者たちといっしょに、

 前世のぼくが魔法のアイテムで、強制転移させちゃったけど……

 あの時の絶望的なアイナママのお顔は、思い出すだけで胸が痛くなる。


「次は……アイナママが、前世のぼくの恋人だった件について、だね」


 これもやっぱりどうしようもない、よねぇ

 そりゃあ、ぼくだってアイナママのことは大好きだ。

 でもそれは、やっぱりママとしてであって、恋人のソレじゃない──と思う。

 記憶を取り戻してすぐのころは、なにかとハァハァすることも多かったけど……

 やっぱりいまのぼくがベースのせいか、ソレもだいぶ落ちついてきた。


「やっぱり、ママをエッチな目でみるっていう……」

「【しちゃいけない感】のほうが強い、よねぇ」


 それとも──

『アイナママ! 実はぼく、死んだ勇者の生まれ変わりなんだ!』

 とか、ぼくがいったら……信じてくれるかなぁ?


「うぅっ かわいそうな子を見る目で、見られそう……」

「でも当時の勇者しか知らないことを、アイナママと答え合わせとかすれば──」

「信じてもらえたりするのかなぁ?」

「………………」

「や、やっぱりこの件も、じっくりと考えた方がよさそう」


 ええと、それから──


「アイナママの娘で、幼なじみのレイナちゃんが、前世のぼくの娘だった件」


 これもホントにどうしようもないというか……

 そりゃぁ、できるものなら名乗りでたいところだけど。

 やっぱり【かわいそうな子】だと思われるのが目に見えてるし?

 それに、あくまで前世は前世。

 いまのぼくはは転生した別人であって、レイナちゃんとはじっさい血縁もない。


「そもそもぼくは……レイナちゃんを父親として、どうしてあげたいんだろ?」


 父として支えてあげたい?

 困ったときに助けてあげたい?


「それだったら……いままでどおり家族として支えてあげればいいんじゃない?」


 そう思ったら、ストンとココロが落ち着いた。


「つまるところ、けっきょく──」

「どれもこれも現状維持、だよねぇ……はふぅ」


 ◇◆◆◇


 とまぁ、そんな結論を出したぼくが、

 夜にベッドでおやすみしていたら──


「なんだか──」

「見おぼえのある、真っ白なところにいるんですけど!?」


 すると……


『……きこえますか……異世界の勇者よ……』

「こ、この直接脳内に語りかけるその声は……女神さま!?」

『うふふ……そうです……わたくしが女神さまです♡』


 そんな声とともに、女神さまが姿をみせる。

 あいかわらず、ほぼ全裸で。


「め、女神さまぁ!? おねがいですから服をきてくださいよぉ!?」

『ですから……この羽衣が……わたくしの服なのですが……』

「そんなのっ 服じゃないですっ ほぼハダカですよぉ!?」

『異世界の勇者よ……これはわたくしの権能に関わる仕方のない事なのです……』

「め、女神さまの……けんのう?」

『ええ……わたくしは【芸能】を司る神……【ミヤビ】』

「み、ミヤビ……さま!?」

『こんごともよろしく♡(ニコっ)』


 ぼくがいま暮らしているこの異世界でも、宗教というモノはある。

 とはいえ、現代日本の宗教と違って、ほんとうに神さまは存在するんだ。


(でも、ぼくも神さまと話すのは初めて──あ、2回めか)


 そして天界には800万柱の神々がおわす、とされていて、

 その加護の確かさから、信仰する者は多いそうです。


(やっぱり、人がカンタンに死んじゃう世界だからね……)


 その中でも、特に広く信仰されている4柱が、こんな感じ。


・豊穣神:【豊作祈願】【商売繁盛】など。

・武 神:【武運長久】【必勝祈願】など。

・太陽神:【国家安泰】【子孫繁栄】など。

・学問神:【学力向上】【魔力向上】など。


 そしてその4柱に次ぐ信仰があるのが……こちらの芸能神、ミヤビさま。

 ちなみに加護は、【芸能上達】【武芸守護】とかです。


(だから吟遊詩人や踊り子に、芸術にかかわる人……)

(あと女性冒険者とかの信仰が多いって聞いたけど)


 あ、ちなみにボクが神さまにくわしいのは…

 神官であるアイナママの影響です♪


『異世界の勇者よ……ゆえにわたくしは、神々が天界で行う神事に際しても……』

『わたくし自らが舞を捧げるお役目を、承っているのです(どやぁぁぁ)』

「で、ですが!? なおさらそのお姿ではまずいのでは?」

『………………は?』

「で、ですからハダカでは、他の神々にも怒られちゃいませんか?」

『いえ……大ウケでしたよ? 異世界の勇者よ』

「えー」


 それでいいの!? 天界の神さまたち?


『そもそも……神事の奉納舞が全裸なのは、基本なのです♡……異世界の勇者よ』

「そうなの!?」

『それはもう……わたくしが初めて舞った際は、おーるすたんでぃんぐでした♡』

「か、神々が総立ち!?」

『しかし……それがいかに強い【いんぱくと】であろうとも、慣れてしまうもの』

「は、はぁ?」

『ゆえに……わたくしは学んだのです……』

『全てを見せると、むしろ飽きられやすい……ゆえに、ふぇちずむ大事……と♡』

「す、ストリップだ!? コレぇ!?」


 ◇◆◆◇


 もう……ぼくはこの女神さまを、性的な目で見ることはヤメました。

 ええ、匿名掲示板なんかでも【掲示板荒らし】とかに対して、

 絶対にしてはいけないことは【かまうこと】です。

 なので、そういう目で見たらぼくの負け、負け──


「それでは女神さま? ぼくになんのご用でしょうか?」

『うぅ……な、なぜそのような、牧童が家畜を見るような目で……わたくしを?』

「え? やだなぁ女神さま♪ 家畜は服なんて着ませんから」

『はうっ♡』びくっ♡

「ですから、ブタさんやウシさんのおっぱいにドキドキなんてしたら……」

『め、牝ブタに牝ウシっ!? はぁはぁ♡』びくんっ♡

「……親に泣かれちゃいますよ(ぽそ)」

『そ、そういうココロに来るのはヤメてぇぇぇっ!?』


 と……なぜか女神さまがうずくまって、シクシクし始めたので──

 ぼくはその背中をやさしく、なでなでしてあげながら…

 女神さまがたち直るのを待つのでした。


 ◇◆◆◇


『ふ、ふふ……なかなかやりますね……異世界の勇者よ♡』

「いえいえ、女神さまこそ」

『こほん……きこえますか……異世界の勇者よ……』


 たち直った女神さまがそういうと……

 おすまし顔で、まるで何ごとも無かったかのようにしきり直した。


「ああ、その声は女神さまー(棒)」

『もう少し……感情を込めて欲しいのです……異世界の勇者よ……』

「2回めですから」

『せちがらいです……』


 なんだかすっかりしおれてしまった女神さま。

 というか、さっきからぜんぜんお話がすすまない……


「では改めて──女神さま? ぼくになんのご用でしょうか?(キリっ)」

『は、はい♡ ……そろそろあなたも冷静になった頃……』

『ひいてはわたくしから……申し伝えることがあります』

「もうしつたえ……それは、どんな?」

『わたくしは、先日あなたに伝えました……』

『魔王討伐の件、感謝している……と』

「はい、それはたしかに」

『それに際し、わたくしは……魔王討伐の褒賞を与えました』

「えっ!? ごほうび、ですか?」

『はい……そしてそれは、すでに叶えています』

「い、いつの間に!?」

「というかそれ聞かれてないし、願ったおぼえもないんですが?」

『ふふ……口に出さずとも、わたくしには真の願いなど……」

『お見通しなのです(どやぁ)』

「さすがは女神さま! で、その願いって、どんなのですか?」

『それは2つあり……ひとつは──』

『【聖女アイナに幸せになって欲しい】です』

「それは──」


 それは、確かに願った。

 魔王と相打ちになって、意識が途切れゆく、そのさなかに……

 でも……


「ええと、それは……」

『わたくしは……あなたをこの世界に転生させ……』

『あなたを聖女アイナの家族として、巡り合わせました……』

「で、では!? アイナママとぼくが、いま家族でいられるのは──」

「女神さまのおかげ、ですか?」

『その通りです……異世界の勇者よ』

「あ……ありがとうございますっ 感謝しますっ!女神さまぁ♡(きらきらっ)」

『はうっ♡ 純粋な感謝と信仰が……まぶしい♡ あふん♡』


 なんてこった!?

 こんなすばらしい巡り合わせをしてくれるだなんて……

 あぁっ 一瞬でも【露出女神さま】とか思っちゃってゴメンなさいっ


『ろ、露出女神っ はうっ♡』

「えっ まさか聞こえるんですか!? ぼくの心の声!?」

『こ、ここはわたくしの司る世界……声に出さずとも、その想いは伝わるのです』

「そうですか……(ふいっ)」

『なぜ……目を逸らすのですか……異世界の勇者よ?』


 いけないいけない。

 雑念よ、されー

 んー、ココロを空っぽにして──


「で、ではお聞きします!」

「その……アイナママは、どんな感じで幸せになるんですか?」

『それは……あなたが【家族】として、聖女アイナを幸せにするのです……』

「ぼくがするの!? ってまぁ、そりゃもちろんそのつもり、ですが……」

『……ふむ? ですが……とは?』

「そのー【新しい恋人として幸せにする】っていう、選択もあったのでは?」

『なるほど……それはつまり──』

『前の男の事は忘れさせてやるぜ!』

『という……【えぬてぃーあーる】ですね?』

『 NTR!NTR!』

「ううっ!? 家族として幸せにしますぅ」


 って……なんでNTR(ネトラレ)なんてコトバ、知ってるの!?

 やっぱりこの女神さまっ えろえろだよぉ!?

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