見知らぬ誰かの勘違い

――道中で、興味深い話を小耳にはさんだ。

 きさらぎ駅で見たあの先輩が昨日亡くなったらしい。



 約束の駅前に到着した僕は、ポケットに入れていたスマホを取り出す。

「ごめん! 少し遅れちゃうかも!(09:50)」

「今から出るね!(09:58)」

チャットアプリを開くと、蒼空からメッセージが何件か来ていた。とりあえず既読だけつけておいて、僕はスマホをポケットにしまう。

「もう少ししたら来るかな……」

そう空を見上げて呟いたとき、服の裾をくいくいと誰かに引っ張られた。

おそるおそる横を見てみると、そこには蒼空がいた。

「なんだ……蒼空か……」

 そういうグループのリーダーかと思っていたので、安心してそう漏らしてしまう。

「「なんだぁ……」って何よ!もっとかわいい子が良かった!?」

「いや、そういうわけじゃ……」

大慌てで弁明を図ろうと口を開いた途端、「はいすとーっぷ!」と蒼空に中断させられる。そして彼女は、

「言い訳なんていいよ、私は全部わかってるから。ごめんね。ちょっとびっくりさせすぎちゃったかな……あはは」

「別に、気にしないで」


「ちょっとびっくりしたけど」と後に小さく付け加えながら彼女の頭をぽんぽんと撫でる。幼馴染である僕の特権だ。

「そう、ならよかった」

彼女のふわりとした香りと笑顔が僕の身体を貫いた。


「じゃあ、行こっか」

「うん。行こっか」


 二人横に並び、一緒に駅舎に入る。スマホケースの中に入った定期券を自動改札に近づけ、プラットホームに入る。




「まもなく、一番線に普通杵築きつき行が、四両で到着します。黄色い線の内側でお待ちください。各駅に停まります」


無機質な男性の声の自動放送がスピーカーから発され、その少し後に明るいヘッドライトを点灯させて四両の列車が徐々に減速しながらホームに入線する。


 僕たちはその列車に乗り込み、少し混雑した列車の中にある空いたクロスシートに座った。

「こうやって二人で出かけるのって久しぶりだね」

僕の対面になるように座った彼女がそういう。

「君が誘ってくれないからだろ?」

「そうだけどさぁ~、そっちから誘ってくれてもいいんじゃない?」

「そんな暇はない」

「暇はないっていう割には私が誘ったときにはホイホイとついてくるんですねぇ…」

すかさず言い返すと彼女はぷくっと顔を膨らせながらぶーぶーと僕に反論する。


 そして一駅、二駅、三駅と順々に駅に停車し通過して行く度に、窓の外の景色は次第と都会に近くなる。僕たちが住む辺りには畑と宅地が四対六、小さなスーパーマーケットならあるが、ショッピングモールなんてものはなく、スーパー以外には大手のコンビニチェーンが数店ある程度という、一般的に言う『田舎』とは近いようで遠いが、『都会』というほど発展はしてないとても微妙な地域。

 他愛のない雑談を蒼空と交わしている内に、列車は目的の駅へと到着する。



「まもなく~牛頭うがしら牛頭うがしらお忘れ物の無いようご注意くださ~い」


列車が減速し、自動放送の声が車内に響く。そしてゆっくりゆっくりとホームへと入った列車は完全に停車し、ぞろぞろと子供連れやカップル、社会人らしき人たちが下車する。


 大きめのショッピングモールや飲食店、会社が点在する牛頭の繁華街は土曜日なだけあってとても混んでいた。

「あいつらに会わないといいけど……」

思わずそう小さく呟いてしまう。しかもそれを蒼空に聞かれ

「こら、今はそんなこと考えなくていいから」

そう叱られてしまう。

 少しばかり混んだ歩道を抜け、ショッピングモールの中へと入った。

 彼女はモールに入るとすぐに服飾系統の店舗が集まる区画へと足早に向かい、様々な店舗の中を覗いては出て、覗いては出てを繰り返す。

「うーん、かわいいけど……好きじゃないかな……」

ある店の中でカーキ色のセーターを眺め、彼女が少し悩んだ表情を浮かべながらそう呟く。

「そうかなぁ、着てみたら意外と似合うかもしれないよ」

「ん~じゃあ、試着させてもらおうかな……」



 しゃぁっと試着室のカーテンが開けられ、さっき僕が勧めたカーキのセーターを着た蒼空が姿を見せた。

「すごく、似合ってると思う。というか、少し大人っぽい感じが……いい……」

「そう!? よかった! さっきはどうかなぁって思ってたけど、着てみたら意外といい感じでびっくりしたよ!」

まるで小さな子供のようにうれしそうな表情を浮かべた彼女はカーテンを閉め、元着ていた服に着替え直す。

 彼女が再びカーテンを開けた時にはさっきとは少し違い、白色のシャツにのスカート、ほんの少しだけ幼く見える彼女がいる。

「サク君、決めた。これ買う」

彼女は満面の笑みで僕に報告する。

「いくらなんだ?」

つい反射的に聞いてしまう。

「え~っと、七千円くらい?」

「七……千……!?」

「え、サク君払ってくれるの!?」

「ただでさえ奴らに取られて金がないって言うのに、我に死ねと?」

「冗談だって、ちゃんと私が全部払います~」

ふいと顔を膨らせながらそっぽをむいた彼女はそのままさっきのカーキのセーターを持ってレジへと向かっていった。

 少し遠くから見ている女性店員たちの視線が気になって仕様がなかった

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