5 杯目 旧知

SIDE 石丸いしまる 比地大ひじた


 私自身、この数年で自分の性格の短所を理解してきたつもりだ。故郷である香川県のうどんが全国一の素晴らしいうどんであることは疑いようのない事実であるが、私の思いが独善的な面を有することは否めず、先の学祭でも我が思想を一方的に世間に押し付けようとしていた。それはあまりにも急進的で、私の思想そのものを直接的に世間に出していたら、廃部の危機、ことによると讃岐うどんそれ自体への熱い風評被害へとつながっていたかもしれない。福岡県民のうどん評価の基礎に福岡うどんが君臨していることを知らないまま、醤油うどんの如く私の思想そのままを世間に公開していたらと思うと、今でも恐ろしくなる。またそれを回避できたのは、谷川や宮武君のようなブレーキ役がいたからだ。決して私自身の思想とは相容れない部分が多々あるが、世間がどのような反応を見せるか、世間に受け入れられ実利を得るために取るべき方策はどのようにあるべきかを、学ぶことができた。福岡県民の意識を直ちに変えコシのないうどんを撲滅する機運を高めるという私の目指す真のゴールに対しては、結果的にあの学祭は失敗であったけれども、私自身の成長という意味では、充分な収穫があった。その収穫はこれからも次の結果のために反映し努力し続けていかなければならない。


 さて今述べたようなここ数年の方針転換を踏まえ、私は先の謎マナーに対する行動を策定する必要がある。当該講師の前後の投稿を閲覧してみたが、件の投稿に対する私の心証を改善するだけの要素は見受けられなかった。即ち、投稿及び講師自身への私の気分は依然として害されたままだったのである。従って私個人の本心としては、この謎マナーを直ちに撤回し誤りを認めてもらいたいという当初の内容から変化しなかった。その終着点へ持ってゆく具体的方法は、他者の関心を把握したうえで定めるべきであろう。従って私個人のみならず、多数の意見を聞かねばならない。


 早速、各地のうどん愛好家に連絡を取ることにした。主にSNSをきっかけに知り合った友人たちである。うどんを中核とした和麺・中華麺を好むという点は共通しているが、各々専攻や厳格度合いは様々であり、幅広い意見を得ることができるであろう。


 まずは最も付き合いの長い谷川から連絡を取ることにした。

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