神皇国と人外

第1話 神皇国からの招待状

「……」

「んぇ? どしたの、そふか」


 冬休み初日。相変わらず全ての課題を終わらせてあるそふかと全ての課題を放ってきた八宝菜は、『FMB』にログインしていた。

 特にすることも決めていなかったので、八宝菜は前回ログアウトした宿屋でゴロゴロとしていた。


 そして、そふかが黙りこくっていることに気づいたのである。

 元々そふかは騒がしい質ではないが、違和感を抱いたのは持っている物だった。


 そふかに宛てられた手紙だろうか。近くに封筒も落ちている。トランプカードほどの大きさの紙をそふかはじっと見つめていた。


 一枚の紙を無表情で眺めるそふかに近寄り、その紙を覗き込む。


『追放者の村を焼いた同志よ。あなた方の来訪を心よりお待ちしております。』


 簡潔な内容。差出人の名前もない。そもそも、個人のものであるかすら分からない。


「ふーん、激ヤバさんからのお誘いかな?」

「君は一番人のこと言えないと思うよ」


 わくわくニコニコで人を燃やしていたやつが、人のことをヤバいと言う資格はないのである。


「てか複数犯なのバレてんね」

「あのとき、特に気配は感じなかったけどね……。余程有能な偵察部隊がいるんじゃないかな」


 八宝菜とそふかは現在ホワイトネームである。というのも、追放者の村を襲撃したの

は、明るみになっていないのだ。何しろ出入りも少なく、特に立地的に重要というわけでもない。神皇国の中間地点として使うかどうか。そのレベルである。


 故に、村を焼いたのが誰か──ましてや人数など分からないはずなのだ。


「亜人殺してんのを黙認たぁ、人間至上主義も中々だねぇ」

「まぁ、彼ら彼女らにとっては人ですらないんだろうね」


 この手紙の送り主の検討はついている。

 神皇国。二人にとっては興味もないが、正式な国名を“神皇国レウスメップ”。創造神によって創られた人間こそ天上に近しい存在であり、その他の種族は全て神に仇なす大敵とする国。故に、魔物も含めて人外の排除を教義として掲げる過激派集団である。

 ……最も、創造神云々は神皇国のみが主張していることであり、それが真実とは限らないのだが。


「で、どうする?」

「そふかはどうしたいのさ」

「僕がどう思ってても、君の意見は変わらないだろ?」

「まぁ、そうだけど」

「この手紙は僕“たち”宛てなんだし、別行動するわけにもいかないからね」


 例え親友相手でも、──いや、親友だからこそ遠慮をしない八宝菜。自分の意に反した行動をすることを極端に嫌う彼女の性格を、そふかは良く知っていた。

 勿論、そふかも自分の思うように動きたいタイプだが……八宝菜の方が重症である上に、八宝菜といると飽きない。

 我慢をしているわけでもなし。“親友に合わせる”というのは、そふかの楽しみ方の一つだった。


「行く」

「おけ、じゃあ準備しようか」


 深くは聞かない。理由なんてないことが多い。それに、あったとしても「楽しそう」だとか「直感」だとか、そんなのばかりなのだ。聞くだけ無駄というものである。


「ねぇねぇ。これさ、最高のタイミングでわたしたち人外だよーって言ったら最高に面白くない?」


 今だって、神皇国の人間をおちょくることしか考えてない。

 自己中心的で、刹那的な享楽主義者。言葉だけを並べ立ててしまえば、八宝菜の性格はそふかの好みではない。むしろ、嫌いと言っても良いくらいだ。


「お偉方の目の前で羽を広げるとか?」

「それ良いね。採用」


 それでも、八宝菜とそふかは親友である。楽しければ、楽しいと思える限り、八宝菜はそふかの親友であり、そふかは八宝菜の親友である。


「ついでに滅ぼしてみたいねぇ」

「ついでの範囲じゃねぇ」


 そして相も変わらず、とち狂っている八宝菜にそふかはついていくのだ。

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