Freelife・Make&Break 外伝 ~部長と副部長のプレイログ~

魚水水鬼

中華と蒼華

第1話 その頃、部長と副部長は

 害意と殺意が織り成す掴み合いの大乱闘。しかしながら、仲が——いや、芸人並みにノリが良い文芸部員たちにとっては、ちょっとした茶番、戯れの類に過ぎない。

 そう、「おーけー、言い分はよく分かった。じゃあ死のうか」「種族……」「おい、このプレイヤーネームどういうことだ。おい」「殺さねば」「このジョブ構成結構良いな、採用」「わたしは普通の村人が良かったのに……。聖女ってお前……」「あっでも、このアバター悪くないかも」などという殺伐とした(一部気に入ってる者もいるが)会話が繰り広げられていても、ネタの範疇なのである。


 何とかして部員たちを宥め、見送った部長——和泉いずみひびきは、先程から黙りこくっている副部長——双葉ふたばめぐるの方を見た。


「服のデザインは……これでおk。次は……アクセサリー。十字架か、水晶か……」


 周囲の騒動ガン無視で、自分のアバターを作成していた。


「お前……すげえな」

「? 何が? あ、お前のアバター作っといたから、送るわ」

「おー」


 ウィンドウに映る響のアバターはアルビノ幼女。腰まで伸ばした長髪に、ルビーのように透き通って見える深紅の瞳。服装は赤と黒を基調としたセーラー服のようなぼろぼろのローブ。その儚さや貧弱さを打ち消すように、スパイクチョーカーを着け、金のドッグタグを首から下げていた。半透明になっているのは、種族を幽霊レイスにしたためだろう。「アルビノ幼女で髪は長くて、魔王っぽい感じの服装にして」などという語彙力皆無の説明だったにもかかわらず、要望通りの姿に確定の文字を押した。


「……要望聞いたときに思ったんだけどさ。お前って幼女は性癖の範疇外じゃなかったっけ?」


ウィンドウ画面から目を逸らさず、手を動かしたまま双葉は話しかけた。


「ん? あぁ、そうだけど。

 ま、だからこそってね。VR型は常に自分のアバター見れるわけじゃないし。……お前はだけどな」


 豊かというには余りにも大きすぎる胸——双葉曰く、胸の時点で常識的じゃない——を双葉の頭に乗せて、ウィンドウを覗き込む。

 現在、双葉が操作しているウィンドウに映るのは、黒髪に深い青をたたえた瞳の色白美男だ。そっくりそのまま双葉の性癖である。目つきが悪いのも前髪が長いのも襟足が若干残っているのも全て双葉の性癖である。執事のようなシャツ、白手袋を着用しており、その上からフード付きのジャケットを羽織っている。性癖の宝庫である。


「……重い、邪魔」

「へーへー、あっち行ってまーす」


 冷たくあしらわれてもそれがいつものことと言わんばかりに、ふらふらと少し双葉から距離を取った。ウィンドウ画面を手元でいじくり、再びアバターを表示させた。


プレイヤーネーム:八宝菜

種族:幽霊レイス

一次職業メインジョブ:魔王

二次職業サブジョブ:使役術師


(ほーんと、よくできてんなー。に失敗したら破棄すんのがもったいない。

 ……それにしても)


「なぁ、双葉」

「ん? 何?」

「何でこの名前にしたん?」


 響と双葉は互いにプレイヤーネームを付けあう約束をしていた。よって響はそれなりに考えて双葉にプレイヤーネームを付けたのだが……。


「お前八宝菜嫌いじゃなかったっけ?」

「今日の学食、中華料理の日替わり定食が八宝菜だったから」

「んな、クソ雑な理由で???」


 双葉曰く、今日の今日まで忘れていたらしい。


「そんなことより、アバター作成終わったぞ」

「“そんなこと”か? なぁ」

「俺たちもそろそろ行こう」

「おーけー、分かった今日はそんな感じなんだな」


 準備は完了。後は目を閉じるだけ。






 体が沈む、感覚がする。


 草原に女性が一人立っていた。そして、それを見た者は不思議に思う。何故女性が一人でこんなところにいるのか、ではない。


 その女性は、ただの影だった。


 そう、それは『Freelife・Make&Break』のパッケージにある人影そのもの。性別なんてわかるはずもないのに、何故か見た者全ての脳にと刻み付けられる。

 不思議な感覚だった。その非現実的な感覚をじっくりと味わわせるためか、沈黙の時間が続く。そうして、しばらく経って、その人影が揺らめいた。揺らめいただけだったが、確かにこう言ったのだ。


「ようこそ」


 と。


 そして再び、体が引きずり込まれるように沈み、意識が遠のく。


 招待状は持っている。おいでおいでと手招かれるまま、くへ沈んだ渡った


 その夢とうつつの間で、人影は楽し気に揺らめいて——


「——はやくおいで」


 ——『Freelife・Make&Break』


 タイトルコールは、静寂と共に。

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