第11話 2001/2


-----------------[短文のコーナー]------------------------------------


[summerplace,1979]


um ぼんやり そらを

見上げていると 思い出す

ah 輝いていた あの夏の日

1979


あの頃には わからなかった

時の流れの いとおしさ


そう 今はここで

あの日の気持ち かんじてる



明日に向かって 走ろう

希望の光が あるかもしれない

彼方をめざして


とびだそう

とびたとう



-----------------[長文のコーナー]------------------------------------


[city]





僕は、RZVので夜の町をあてもなく流しながら、

あの男に感じた奇妙な親近感の理由を探していた。


....どこかで、あの感じ...


Deja vu というのは、ふつう人物にはあてはまらないんだっけ..?




細かい振動と、2stroke-oilの燃える匂い。

TZ-typeのグリップを軽く握りながら、スロットルを開く。

環状8号を右折して、外回り方向へマシンを進めた。

なんとなく。

agvのヘルメットに、夜の空気が忍んでくるようだ。

そろそろ、今日に終りを告げる頃...


オーヴァー・パスにさしかかった。

いきなり、1速にシフトしてそのままフル・スロットル。

レヴ・カウンターは盤上を駆け昇り、V4ユニットは整然と仕事を始める。

しかし、その発生トルクの落差は、Riderには唐突な変化として感じられる....

8000rpmを迎えて、最大トルクを得たRZV500Rは容易に前輪をリフト・アップ。

オーヴァー・パスのアンジュレイションも加勢して、

僕は愉快な気持ちになり、ちょっと腰を引き、フロントの荷重を抜く。

オーヴァー・パスの頂上を越えたマシンは、そのままフロントを持ち上げ、

下りに差しかかる。

瞬間、リア・タイアが離陸する。

すかさず、スロットルを気持ち戻す。

こうしないと、オーヴァ・レヴでエンジンを破壊してしまう..


リアが着地。の瞬間、タイミングをあわせてスロットルを更に開く。

Michelin M48は、小さく悲鳴をあげる。

ゴムの焦げる匂い。


....飛行機が着陸する時も、こんな感じだったっけな...

僕は、幼いころの家族旅行で搭乗したYS-11のエンジン音や、コンベア880の

流麗なフォルムを想起し、それとRZVの美しいテイル・カウルのラインをイメージ像で

overlap させていた...

と。


下り切ったところのシグナルが赤いサインを発していることに気づく。


.... 停止は無理だ。

.... 回避は?

.... 方向は?

.... 成功の可能性は?


瞬間に、選択を迫られる。

City-runabout は、ある種GPレースより困難だ..


... このまま、いっちまえ!...


まさかの場合の用心に身構えたまま、2速にシフト・アップ。

ブレーキ・ペダルには足をのせたままに。

停止車のない交差点に入る。

さっきから、速度警告灯は赤いランプがついたままだ。


真一文字に交差点を抜けよう、とした.........


左方向から、障害物が接近してくる。

視界の中で壁のようにひろがって来た。



....おそらくは、11tトラックかなんかだろう......



僕は、ぐい、とリーン・アウトでフュエルタンクを右に押し、ハンドルにあて舵をする。

直進性のつよいRZVは、瞬間、フロント・タイアが滑り、軽く右に倒れ込もうとする。

アクセルを押えたまま、その力を路面に押しつけ、強引に方向を右に換えようとした。


キャブ・オーヴァーのトラックから、パッシング・ライトとヤンキー・ホーンの音が

怒涛と押し寄せて来た。

トラックのタイアスキールが、不吉なハーモニーとして死へのpreludeを奏でているようだ。


風圧。

音圧。

気配。


存在感を左半身に感じた。



が。



直後、RZVのリア・フェンダに感覚を残しながらも


彼岸から僕は戻れた、ようだった... . . 。



中央分離帯を避ける必要から、フル・ブレーキングし、左ターン。

その作業を機械的にこなしながら、妙に冷静な自分を不思議に思った。



...いつから、こんな...



エスカレートする攻撃性。

衝動を誘うcity。

そいつは、いつも破滅を狙ってる。


power.

violence.

speed.


ここじゃあ、タフな奴しか生き残れない。



僕は、ひと仕事終えたような気分で、スロットルを戻し、

3速にホールドしたまま、緩いカーヴをクリアした。




R31のフロント・グラス越しにこのゲームを眺めていた男は、

小さく舌打ちをしたまま、赤信号と、急停止でエンジンがストールした11tトラックを睨み、

手垢に塗れたホーン・ボタンを叩いた。


革のコートが擦れ、やはり死した動物の嘆きのようにちいさな音をたてた。






-------以下、次号に続く------------------------------------

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る