第6話 2000/5


-----------------[短文のコーナー]------------------------------------


[Virtual*]



無意味で無味な


「日常」は


ただ流れてゆく



私にとって


「現実」はもはや現実でなく


疑似体験のように


実感を伴わずに 襲いかかる


さながら 悪夢のように



逃げ場を失った 「心」は


「虚像」や「偶像」のなかに


希望を見い出すのだろう



奇妙なリアリティのもとに


「image」が私を誘う



  錯綜



-----------------[長文のコーナー]------------------------------------


[city]


ディーゼル・ユニットは、激しい振動とノイズを撒き散らしながら驀進する。

S12は、持ち前の適応力ですぐさまこのキャリア・カーのハンドリングを

“ものにした”。


深い、森林に囲まれたワインディングを、右。左....。


大きなステアリングをすばやく切り、カウンターを呉れながらフル・スロットル。


「ここは...どのあたりだろうか....。」


ルーム・ミラーに映る、自分のマシンを気にかけながら、彼はあたりをつけた。


闇雲に走っていても、そこは長い経験を持つ走り屋だ。

回遊するようなことはない。

不思議なことだが、彼等のような連中は滅多な事では道に迷ったりはしない。

嗅覚が働くかのように、目指す方角を探り当てる。

「カン、だよな...。」

彼等はいつもこんな風に言う。


彼らには、渡り鳥のような方位コンパスが備わっているに違いない....。



しばらく走ると、標高が下がり、どこか見覚えのある街路に出会う。


「ここは......。」


旧道R246.神奈川ー静岡県境のあたりのようだ。


彼は丹沢山渓のあたりに拉致されていたようだ。



「よし!」


彼は、思い切りアクセルを踏んだ。



ここまでくれば、もう大丈夫だ。



....どうするかな、このキャリア・カー。


.....どっかに捨てちまおう....。



彼は、携帯電話で仲間に連絡した。



「とりあえず....御殿場の熊でも呼ぶか....。」


彼の工業高校時代の級友。

今は電気工事屋をしている。商売柄、付き合いも多い。

多分、今なら家にいるだろう....。


ポケットから携帯を取り出し、手探りで短縮ダイアルをコマンド。




「....おお、クマ。俺だよ。ちょっと頼まれてくれよ...。」





街道筋から入り込んだ作りかけのバイパス道路。

よく、小僧どもがゼロヨンをする場所だが、今日はweek-day。



静まり返っている。




「なんだよ、そりゃ、話んなんないだろ。」



クマは、自分の乗ってきたピックアップ・トラックのバンパーに腰掛け。


クロム・鍍金のごついグリル。

盛り上がったフェンダー。


力強い造形は、いかにもアメリカだ。




「そうだろ、お笑いもんだよな。」




S12は、仲間に会えた安堵からか、相好を崩して。



「で、どうする...?」


「そうだな、とりあえず家にこいつを置いてきて、これ、捨てちまうから手伝ってくれよ。」



「オーケ。!」


クマは、運転席によじ登り、スターターを入れた。


オイル煙と共に、力強く5.7litter V8unit は目覚めた。


その、力強さを何よりも頼もしく感じる、S12の彼、だった。




-----------------[あとがき]--------------------------------------------

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