第4話 作戦まで観光とする

 無事、和国へと着いた。どうやら鎖国といっても一部の商船とは貿易しているらしく、つれごさんの信者に頼み、一時的にその商船の乗組員となることで入国できる、ということらしい。


 正式な手続きを踏んでいるのだから“密入国”なんて言い方をしなくても良いのではないか? とは思ったが、どうやら商船の乗組員が立ち入れるのは一部の地域のみであり、目的の神はとある集落にいるとのこと。その地域は余所者が入って良いラインを越えており……不法侵入確定のための“密入国”という表現だった。


「今回殺しに行く神は土着神でね。信仰を得てる集落内だとすっごい強いの。だから、外に誘き寄せたいんだよね」

「その準備は私とまくらがやってるから、メールで呼ぶまでこーはいは好きに遊んでて良いよ」


 おっと、てっきり準備まで手伝わされるかと。まぁ、先輩方が許可を出したのだ。お言葉に甘えて観光するとしようか。


「分かりました。では、後程」






 つれごさんとまくらさんと別行動になったが……特にやることもない。何しろ、こちらはまくらさんの「神殺そう!!!」という誘いにOKしただけであり、和国に関して碌に調べてもないのだ。


 故に、私の知っている情報は船の中で二人から聞いたことにのみとなる。時間もありそうだし、情報の整理でもしよう。


 まず、今いるここは貿易エリア。数少ない貿易相手が発着する港や仕入れなどを行う商店が立ち並んでいる。正式な名前もあるが、興味がないので聞かなかった。和国の国名も同様である。

 商人たちが呼び込みをしており、活気がある。異国の人間との交流のためか和国の人間もいるようで、「立ち話も何だから」と食事処へ入る様子も見受けられた。

 何か掘り出し物があるかもしれないので、店も見つつ考え事とする。


 さて、件の土着神だが、前回の女神のようにドロップアイテム目当てではない。


 まくらさん曰く、


「つれごはね、たくさんの人を助けたから“救済と慈愛”を司る女神になったんだよ。だから困ってる人から相談を受けて、その解決をするっていうのが、最近の僕たちのプレイスタイルかな」


 とのこと。


 そして今回の依頼の概要をざっくり纏めると、


①土着神は鯰の姿をした神であり、生け贄を捧げなければ神は“怒り”、地震を引き起こす。


②土着神は和国全体に根付いており、“怒り”の対象は島国全土である。この国の人間は“怒り”と共に土着神を大層畏れている。


③土着神の“怒り”を収めるためにとある集落が選ばれ、その集落では毎年働けなくなった老人が生け贄として捧げられる。


④依頼者はその集落出身であり、今年足を怪我して歩けなくなった父親が生け贄にされてしまう。


 そうして困り果てたが、祖国に相談できる人間もおらず……商船の友人(つれごさんの信者)に連れられ、つれごさんに出会ったという経緯だ。今では依頼者も立派なつれごさんの信者である。

 それにしても、つれごさんは何人ほど信者を抱えているのだろうか。知りたいような、どうでもいいような。


 まぁ要するにこの戦いは端から見れば土着神VS余所の神。仮につれごさんが負けたとしても和国の人間は知らぬ存ぜぬを突き通せるわけだ。……まぁ、神にその理屈が通用するかは不明だが。


 そしてこれはまくらさんからこっそり言われたことなのだが──まくらさんは、信仰の挿げ替えを狙っている。

 要するに、現在の土着神が受けている信仰をつれごさんのものにしてしまおう、というわけだ。中々に恐ろしいことを考える。普段の言動的に阿呆扱いされることの多いまくらさんだが、つれごさんが絡むと急に頭が良くなるのだ。どういう原理だ。


 なお、つれごさんは純粋な善意で相談者を助けようとしている。流石、文芸部員唯一の癒しである。


 そんなことをつらつらと考えながら歩いていると、ふとある店が目に止まった。


(武器屋か……)


 そういえば、ナトに買い与えたツルハシがそろそろ壊れそうだった。ここらで丈夫なものでも買ってやるか。


「おぉ、らっしゃい! 異国の方か、どうか見てっておくれよ!」


 品揃えは中々……と言っても、私は<鑑定>などのスキルを持っていないため、雰囲気の話になるが。


 異国との取引品も並べているのか、両側に刃のついた西洋風の剣も多くある。


 しかし大半は異国人向けなのか、刀や薙刀などの品揃えが豊富だ。


 にしても何が違うんだ? 武器の目利きなんてできないから、良し悪しが分からん。クソ……ここにマリリンさんがいれば……!


 嘆いても現実は変わらない。流石にこんな大通りに悪徳商人はいないだろうと踏んで、大人しく店員に話しかける。


「すみません、お勧めの武器はありますか?」

「どんなものをお求めですか?」

「そうですね……なるべく壊れづらくて、切れ味の良いものがいいです」

「でしたら、こちらはいかがでしょう! <不壊>の妖術……あぁ、異国の方は付与魔法と言いましたか? そちらがかかっております。効果は単純! “決して壊れない”! また、和国秘術の製法で作られた刀ですので、切れ味も抜群です!」

「じゃあ、それで」


 会計へと移り──うわ、たっか。いやまぁ、秘術がどうとか言ってたから貴重なものなんだろうが、……値段に見合う働きしろよ? ナト。


「お買い上げありがとうございます!」


 店員の感謝を背に店を出る。


 さて、この買い物が吉と出るか凶と出るか……。凶と出たら本格的にナトを見捨てよう。

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