和国へ

第1話 一つ飛ばして、六匹目

 体育祭も終わり、冬休みになった。


 私としては高校初の体育祭だが、中々にカオスだった。


 全学年種目である大玉転がしでは、低身長組の田上先輩と岩崎先輩がぶっ飛んだ。


 二学年競技のダンスではノリノリで踊る部長の胸に女子も男子も釘付けだった。抗えぬ男のさがである。女子に関しては嫉妬か同情。


 昼休みでは梅原先輩のところへ文芸部総出でたかりに行った。塩おにぎりでさえ美味しかった。唐揚げは全部私のものだ。


 学年リレーでは酒井先輩が転び、見事な受け身を取った。見事すぎて歓声が上がってほどである。


 ここはコント会場だった……??? 残念ながら否定する材料が見当たらないのでそうなのかもしれない。


 なお、当然のように双葉先輩がいる組が優勝した。存在がチートなの本当になんなんだ。運営早く対処しろ。


 そんな愉快な体育祭を回想しつつ、『FMB』にログインする。今年は例年と比較し、冬休みが短いそうなのだ。時間を無駄にしている暇はない。まぁ課題は休み前に全て終わらせたことだし、思い切り楽しもう。


 いつも通りグッと引っ張られるように沈む感覚をやり過ごし、ベッドから体を起こす。ギャングとの戦い(私自身はほぼ何もしていない)の後、近くの宿屋に泊まっていた。


 さて、早速だが貰ったメドゥーサの召喚陣を使おう。最近数億の価値があるこれを見ても手が震えなくなった。慣れとは恐ろしい。まぁ奪われたらキレるが。


 それにしてもこれで召喚獣は六匹目となる。前、砂漠へ行ったとき手に入れたサンドワームはとっくに召喚し、ドールと名付けていた。クラーケンは海のあるところじゃないと召喚できないため、後回しとする。



 はてさて、鬼が出るか蛇が出るか、とは言っても蛇が出るのは分かり切っている。


 懸念点はシュブ=ニグラスのようになるか否かだ。他人に左右されないタイプは苦手なんだ。どうかチョロくあれ。


「召喚:メドゥーサ」


 魔術陣が浮かび、黄金に光り輝く。この光景をマリリンさんに見せたらどう思うだろうか。黄金という“色”には興味がなさそうだが、この鮮やかな光景を何らかの商売に結び付けそうだ。


 そんなことをつらつらと考えていると、魔術陣が収縮し始める。最初は魔術陣の少しの動きにも注目し、緊張感があったものの、今では別のことを考える余裕もできた。慣れとは恐ろしい。


 さて、そろそろ現れるか。


 ずるりと無数の蛇が這い出てくる。黄金の翼をばさりと広げる。目を閉じている絶世の美女が何故かこちらを見つめているように思える。


「……」


 何も言わない。やっぱシュブ=ニグラスが特例なのか?


 じっと見つめ続ける。こっちから声をかけるべきか。


「……」

「……」

「…………何か言いなさいよ」

「シャベッタァ!!!」

「は???」


 渾身の裏声は不評のようだ。


「いや、前回言葉を介す召喚獣もいると初めて知ったからな。どうやら人型の魔物は話せるらしい」

「魔物なんて醜いものと一緒にしないでちょうだい。私は私よ」


 ふむ、高飛車なクール女王様といったところか。これまた部長が好きそうだな。


「後、メドゥーサと呼ぶのも止めなさい。種族で量られるのは不愉快よ」

「確固たる自意識があるのは結構だが、識別できないのは面倒だろう。お前の名前はガタノトアだ」

「ふぅん? 美しくない名前ね」


 失礼だなオイ。全国のガタノトアファンに謝れ(いるかは知らない)。


 なお、名付け理由は石化能力繋がりである。


「ま、いいわ。精々私を使ってみなさい」

「言われずとも使ってやる。使えなかったら殺すからな」

「……憎たらしい人間ね」


 ガタノトアを送還し、見るからに嫌そうな表情を見送る。

 それにしても、希少な召喚獣を殺すとは、前までは脅しでも言えなかったセリフだ。


 本当に、慣れとは恐ろしい。

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