第6話 三匹目

「お疲れ~~~!!!」

「お疲れ様」

「お疲れ様でした」


 女神を殺した泉の前で、私たちは寝そべっていた。クッソ疲れた。いや私は特に動いてないが、精神的な意味で。送還のタイミングにも気を遣うし。


 なお、まくらさんとナトはびっしょびしょである。何故か? 泉の底に沈んだ金と銀の斧を取りに行ったからである。取り終わった後で、ショゴスに行かせればよかったのでは? と気づいたのは内緒である。


 二挺の斧を振って、水滴を払い、背負う。


 元々女神の持つ斧だったからか、随分と様になっている。


 まくらさんはつれごさんの尊さと美しさで撃沈した。


「じゃ、報酬下さい」

「余韻の欠片もないね。まぁいいよ」


 はい、と手渡されたのは魔術陣が描かれた一枚の羊皮紙。


 召喚陣:バフォメット


「今回は本当に手伝ってくれてありがとう。わたしたちはもうログアウトするよ」

「じゃあねー!」


 そう言って、二人は街の方へ向かった。恐らく宿屋でログアウトするつもりだろう。


 さて、召喚するか。


 幸い、ここの泉は誰かが近寄ることもないようだ。木々に囲まれているため、目立つこともない。というより、さっさと使ってしまいたい。ロストやだ。


「召喚:バフォメット」


 羊皮紙から光が溢れる。そこは、ショゴスとナトのときと同じだ。しかし、一つ違う点がある。


「でっか……」


 泉を覆うように、開けた空間いっぱいに広がる魔術陣。そこから放たれる光は二匹のときと比べ物にならず、鮮烈で強烈だった。


 そして、収束。それでもなお、前回までの魔術陣より大きい。ここで召喚しといて良かったな。


 現れたるはサバトの山羊。黒山羊の頭部に烏の翼を持つ、両性具有の悪魔。


 こいつの名前は、最初から決めていた。


 千匹の仔を孕みし森の黒山羊、狂気産む黒の山羊。男神でもあり、女神でもある地母神、豊穣神。


「お前はシュブ=ニグラスだ」

「——名を賜り、感謝いたします」


 ……は?


「初めまして、我が主よ。私は貴女様の忠実なる僕。如何なる御用命も果たしてみせましょう」


 いや、めっちゃ流暢に喋るやん。え、何???


「おい、何喋ってんだ」

「嗚呼! 許可なく話してしまい、申し訳御座いません!」

「そういう意味じゃない。何故、召喚獣が話せるのか聞いている」

「おや? 悪魔にお会いしたことはないのですか?」

「悪魔ってのは喋るのか?」

「えぇ、勿論。悪魔は天使から堕天した者。当然、話せるほどの知性も持ち合わせております」


 あー、もしかして。<召喚術>って魔物以外も召喚できるのか?


 そういえば、ショゴスも(鳴き声とはいえ)こっちが教えた内容を話せてたな。話す召喚獣はそこまで珍しくないのか。知らんけど。


「まぁいい、用があるときは呼ぶ。今は引っ込んでろ」

「畏まりました」

「送還:ショゴス、夜鬼ナイトゴーント、シュブ=ニグラス」


 まだ戻していなかった二匹と、新しく加わった一匹も送還し、その日は<死霊術>を使ってのレベ上げをして終わった。

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