第6話 おしまいです

 レイナは自室のベッドで頭からフトンを被り震えていた。


 王族を足蹴にして口汚く罵った後、平気な顔して授業を受けられるほど図太い神経は持ち合わせていない。速攻家に帰って来た。そして今に至る。


「あぁ、もうダメだぁ~! おしまいだぁ~! 王族にあんなことしたんだ、打ち首確定だぁ~! 二度目の人生短かったなぁ~!」


 レイナは覚悟を決めていた。


「お嬢様、起きていらっしゃいます?」


 そこへ侍女のエルがやって来た。


「...なに?...」


 フトンから顔だけ出して尋ねる。


「ハインツ殿下がいらっしゃってますけど」


「ひいいいっ!」


「お、お嬢様、大丈夫ですか!?」


「...首...」


「はいぃ!?」


「...首を刎ねに来たの?...」


「なに言ってんですか!? 普通にお見舞いにいらっしゃったんですよ!? で? どうします?」


「...行く...」


「そうですか。客間にご案内してますから、お早めに」


 覚悟完了したレイナは重い足取りで客間に向かった。



◇◇◇



 客間に入るなり、スライディング土下座をかましたレイナは、


「こ、この度は、ま、誠に、も、申し訳ございませんでした! で、出来ますれば、咎は私め一人でご勘弁頂きたく、家族は預かり知らぬことでございます故、私の首だけでご容赦頂けますと重畳でございまする!」


「れ、レイナ、頭を上げてくれ!」


「いいえ、どうかその刀で一思いに、どうか何卒!」


「い、いや、帯刀してないし...じゃなくて! とにかく頭を上げてくれ! 怒ってないから!」


 するとレイナがおずおずと頭を上げる。


「ほ、本当に!?」


「あぁ、本当だ。ほら、立ち上がって!」


「...立ち上がって油断したところを後ろからズバッと斬るとかじゃなく?」


「スパイ小説じゃ無いんだから、そんな卑怯な真似しませんって...とにかく座って!」


 レイナは恐る恐る立ち上がり、恐る恐るソファーに座った。


「コホン、まずは謝らせてくれ。申し訳なかった」


「で、殿下! 王族が簡単に頭を下げてはいけません! 頭をお上げ下さい!」


「いいや、ちゃんと確かめもせず、君を貶めたのは事実だ。本当に申し訳なかった。許して欲しい」


「許します! 許しますから頭を上げて下さい! それに私の方がもっと酷いことしたんですから、謝るのは私の方です!」


「じゃあこれでチャラってことで」  


「...いいんでしょうか...」


「いいんだよ。君にガツンとやられて俺も目が覚めたしね。だからもう謝るのはお互い無しにしよう」

 

「わ、分かりました。あの...ありがとうございます...」


「どういたしまして。あぁそうだ、クレアを虐めていた君の取り巻き連中は全員停学になったから。君が関与していないのは言質が取れてるから、明日はちゃんと学校来るんだよ?」


「わ、分かりました...」


「さて、それじゃあこれで帰るよ。あんまり時間が無いんだ」


「あ、はい。わざわざありがとうございました」

 

「じゃあ明日また学校で」


 ハインツは立ち上がって踵を返したが、振り返って一言、


「あぁそれと、婚約は破棄しないからね」


 そう言って颯爽と帰って行った。後には呆然とした様子のレイナだけが残された。


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