第4話 覗くんです

 放課後、レイナは図書室に来ていた。


 窓際の席からちょうど生徒会室が覗けるのである。成績優秀なクレアと王族であるハインツは、1年の時から生徒会入りしている。そこで愛を育むのである。


 おバカなレイナは生徒会に入れないから、こうしてコソコソ覗いているという訳である。ちなみにこれはゲーム内知識だったりする。ゲームの中の悪役令嬢レイナもこうやって覗いていた。嫉妬に狂った目で。こっちのレイナはというと...


 (あ、肩を寄せ合って何か読んでいるわ! 肩と肩が触れそうな距離よ! あぁっ! 顔を上げた瞬間、近付き過ぎたのに気付いたのか慌てて離れたわ! ふわぁっ! 二人とも顔真っ赤よ! 良いわ~♪良いわ~♪初々しいわぁ~♪)


 別の意味で狂っていた。



◇◇◇



 それからも毎日、レイナはクレアの一挙手一投足を観察していた。クラスの中では残念ながら孤立しているようだ。やはり一人だけ平民出身ということで悪目立ちしているせいであろう。

 

 レイナも話し掛けられずにいる。お近付きになってもっと近くで観察したいのは山々だが、なんといっても隣の席がハインツなので、睨まれたくないから二の足を踏んでいる。


 そのため、クラスに居る時のクレアは基本的にハインツとしか喋らない。そのことで主に女子生徒達から鋭い視線を浴びることになる。当人達は全く気付いていないが。


 レイナの図書室通いは毎日続いていた。そんなある日、


「あら? クレアたんが居ない?」


 いつもなら真っ先に来ているはずのクレアの姿が無い。


 (なんだか嫌な予感がする...はっ!? そう言えばそろそろあのイベントの時期じゃなかった!? あの場所は確か...思い出した! 部室棟の裏だ!)


 レイナはゲーム内知識を総動員して場所を特定し、走り出した。



◇◇◇



「あんたねぇ、ちょっと成績が良いからって生意気なのよ!」


「そうよそうよ、平民の分際で何様のつもり!?」


「ハインツ様に色目を使うなんて許せないわ! 恥を知りなさい!」


「そ、そんな、私、色目を使ってなんて...」


「お黙り! ちょっと可愛いからって調子こいてんじゃないわよ!」


「そうよそうよ、ハインツ様にはレイナ様っていう歴とした婚約者が居るんだからね!」


「泥棒猫みたいな真似してんじゃないわよ! 全く、これだから平民は!」


 (はわわわ~! やっぱりぃ! 囲まれてるぅ! しかもあれ、私の取り巻きズじゃないの! 冗談じゃないわよ! これじゃあこの場に居なくたって、私が指示してやらせたみたいに思われちゃうじゃん! どうしよ、どうしよ!)


 その時、ふと閃いた。要は姿を見られずクレアを助ければ良いんだと。この上の階は確か美術室。この時間なら誰も居ないはず。あ、でも、美術部員が居たら? そん時はそん時でなんとかする!


 レイナは階段を駆け上がった。美術室のドアを開ける。幸いなことに誰も居なかった。急いでバケツに水を入れる。チラッと下を覗くと、そろそろ一触即発だ。


 (クレアたんは壁際に追い詰められてるから、ここからちょっと遠目に掛ければクレアたんには掛からないはず! それぇっ!)


 レイナの撒いた水は物の見事に取り巻きズだけをびしょ濡れにした。


「「「 キャアアアッ! 」」」


 取り巻きズの絶叫が響き渡る。


「なんだなんだ!?」「何かあったのか!?」「悲鳴が聞こえたぞ!?」


 騒ぎを聞きつけて人が集まって来た。その中にはハインツの姿もあった。取り巻きズは蜘蛛の子を散らすように逃げて行った。


「クレアっ! どうした!? 何があったんだ!?」


「え、え~と.. 」


 クレアは上を見上げた。レイナは急いで隠れた。


 (危ない危ない! 見付かるところだった! でもまあ、クレアたんを助けられたし良かった良かった!)


 その頃クレアは、ハインツに状況を説明しながらチラッと見えた人影に思いを馳せていた。


 

 

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