二人だけの同窓会

折葉こずえ

第1話

 


 「えー、それでは時間になりましたので、全員揃っていませんが、これより第一回、相川高校3年7組の同窓会を開始いたします!」

 学級委員だった高橋が持ち前の大きな声で挨拶を始めた。

 高校を卒業して初めての同窓会だ。卒業して7年経つ。彼らは25歳になっていた。

 「誠に残念ながら本日、水野先生は大事な仕事があるという事で参加出来ません」

 「えーまじかー! ミズッポに会いたかったのにな」

 どこからか声が上がる。

 「ミズッポそろそろ還暦だよね?」

 意外なミズッポ情報をどこかの女が言った。

 ひとしきりミズッポの話題ののち、

 「それより、まだ来てないの誰だ?」

 だれかが言った。

 「だれだ? みんないるよな?」

 「おい、高橋、何人来ていないんだ?」

 ある男が高橋に尋ねた。

 「ちょっとまって、今何人いるんだ?1、2、3・・・えーっと、34人だな。という事は2人だな。2人来ていない」

 「ウチのクラスって36人もいたっけ?」

 ある女が尋ねた。

 「そうらしいね、クラスに何人いたかなんて意識したことなかったけど、ははは」

 「誰だよ来てないの、判る奴いねーの?」

 「女子じゃないのか? おい、女子達!いない顔はないか?」

 「わかんないよー。男子じゃないの?」

 女の一人が答えた。

 「おい!高橋、名簿持ってねーのか、名簿」

 「あるよ。点呼取るか?ははは」

 高橋が嬉しそうに言った。

 「お! いいねー。点呼取ろうぜ」

 「おい! ちょっと待て、その前に乾杯だろ? 俺もう喉カラカラ」

 大柄な男が立ち上がって訴え、周りで笑いが起きた。

 高橋が立ち上がり、

 「ではみなさん、相川高校3年7組のクラスメイトの益々の繁栄を願って! 乾杯!」

 「かんぱーい!」

 こうして宴は始まった。



 宴もたけなわになり幾分皆に酔いが回ってきた時だった。

 「そういえば来てない2人誰だ? まだ来ていないのか?」

 一人の男が思い出したように大きな声で言った。

 「そうそう、高橋君。点呼どうなったの? はははははは」

 何が可笑しいのか判らないが、酔いの回った女が投げかけた。

 「そうだったな。よしよし、点呼取るぞー!」

 良い感じで出来上がった高橋が名簿を片手に立ち上がり、

 「んじゃ出席番号順にいくぜ。高橋勝則!」

 「おい! それ2ページ目! それに高橋ってお前だろ」

 会場が湧く。

 「そうだったな。ははは。んじゃ行くぞー! 浅野高志」

 「はい!」

 「安達京子」

 「はーい」

 「石川香織」

 「ほーい」

 「植野浩二」

 「へいへい」

 ・

 ・

 ・


 「吉川遙」

 「……」

 「ヨシカワハルカ?」

 誰も返事をしない。

 「吉川遙ってだれ?」

 どこからか声が聞こえた。

 「おい、吉川の友達だった奴いないのか?」

 高橋が皆に尋ねたが誰も手を上げなかった。

 「名前からして女だろ。おい、女子、誰か知り合いいないのか?」

 「えー? しらなーい。誰だろ?ハルカ? あんた知ってる?」

 薄情そうな女が隣の女に尋ねたが、 

 「私も知らないよ」

 誰も覚えがなかった。

 「まあ良いか、とりあえず一人目は吉川だな」

 高橋が仕切るように声を出した。

 「じゃあ続けるぞ。吉田明美」

 「はーい」

 「吉田智樹」

 「ほい」

 ・

 ・

 「渡辺加代子」

 「……」

 「ワタナベカヨコ?」

 「渡辺ってどんなやつだったっけ?」

 ネクタイを額に巻いた一人の男が声を出した。

 「おい女子達、渡辺加代子だぞ、いないの。誰か覚えてるか?」

 「ワタナベー? んー、覚えてない。てへへ」

 「うわ、冷めてーやつ」

 「だって知らないんだもんー、仕方ないじゃん、ぎゃははは」

 この女は相変わらず何が可笑しいのだろうか。

 「おい高橋、卒アル持ってきてないのか?」

 社会の窓全開の男が高橋に尋ねた。

 「持ってきてねーよ。同窓会にそんなもん持ってこないだろ」

 高橋はズボンのファスナーに気が付きつつも敢えて触れなかった。

 「それにしても来ていない2人を誰も覚えてないとかおかしいだろ」

 「余程影の薄い人たちだったのかしら?」

 同窓会の話題はその「2人」で持ち切りになった。

 「俺帰ったら卒アル見てみよっと。吉川遙と渡辺加代子……っと」

 「私も見てみるー」

 「きっと顔を見れば、ああ、この人かって判ると思うよ。だって今居る全員見覚えあるもん」

 ある女が言った。

 「そうそう。顔見ればわかるんだろうけど、名前を先に聞くと顔が思い出せないんだよね」

 「しかし、吉川と渡辺か。本当にいたのかな?そんな2人……」

 同窓会場は最後までその話題で続いた……

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