第4話 英雄、装衣の使い方を教える

 まずは互いのできること、できないことを知る必要がある。


 というわけでギルドにある会議室を借りて彼女たちを招き入れた。


「準々決勝の時は君たちのアームドコートがどんなものなのか間近で見ることができなかった。だからここで召喚してみせてもらえないか」


「わかりました」


 三人は少しずつ距離を取り合って立つ。


甲腕顕現アームドリアライズ!」


 次の瞬間、それぞれ異なる形状の装腕を身に着けていた。


「私は守甲腕ガードアームドの8級です」


 ササンクアは守りを得意とするアームドコートだった。

 8級の割には装腕率が高い。

 両肩から下がる盾は腕とほぼ同じ長さがあるし、上半身をカバーする装甲部分も多い。


「そういえば準々決勝でボールサムの周囲にシールドが飛んでたけど、あれはササンクアがやっていたのか」


「はい。教義で自ら積極的に攻撃をすることはできないのです。その分、守りに徹するようにしていました」


 なるほど。

 この装腕率で8級に留まっている理由はそのあたりだろうな。


「わたくしは7級の軽甲腕ライトアームドですわ。そしてローゼルは8級の重甲腕ヘビィアームドですのよ」


 双子はササンクアに比べると級相応の装腕率だ。


 ティアはライトアームドらしく全体的にほっそりとしたシルエットをしている。

 胸部を覆う装甲も控えめだ。

 でっぱりも控えめだが。


 一方のローゼルはヘビィアームドにしてはいささか寂しい。

 肩回りから胸にかけて装甲はないし、両腕の拳も手袋かと思う程度でしかない。

 胸部のでっぱりは姉のティアに比べるととんでもないことになっているんだがな。


「ジニア様は本当にアームドコートの召喚ができないんですの?」


「残念ながらな。3年前は1級の砲甲腕シュートアームドだったんだが」


「今回の大会で勝ち残られたのにはなにか秘訣のようなものがあったんでしょうか?」


「秘訣ってほどじゃないが……ほら」


 言いながら上着の襟を引っ張って首周りを見せる。

 肌の上に薄い膜のようなものがピッタリと張り付いているのがわかるはずだ。


「それは装衣――ノービススーツですか?」


「ああ。実は首から下はノービススーツを常に身につけている」


「え? どういうことなのです? ノービススーツってそんな風に常用できるものなんですの?」


 ティアの頭の上にはいくつもの?マークが浮かんでいるようだ。


「俺が思うにノービススーツっていうのはこうするのが本来の使い方なんじゃないかな」


 アームドワーカーならば当然身につけているべき基本スキル。

 ノービススーツに特殊な能力はないが、これができなければアームドコートの召喚はできないものとされてきた。


「みんなもノービススーツの召喚はできるだろう?」


「もちろんできますわ。でもあれは手を覆うだけではなくて?」


「思い出してみてくれ。君たちがノービススーツを召喚する時はどうやっていた?」


 三人の中では一番年長であるササンクアに聞いてみる。


「手袋を外して、それから上着の袖をめくってからですね」


「それだよ」


「どれですの?」


 やっぱりティアは頭の上に?マークを浮かべている。


「ノービススーツっていうのは肌の上に直接召喚するものなんだ。露出しているのが肘から先なら当然そこを覆う。じゃあ、全身裸だったらどうなると思う?」


「それは……まさか!? ジニアさんはそうやってノービススーツを?」


「正解だ。実はノービススーツっていうのはなかなか高性能なんだよ。ちょっとした刃物なら通さないし、毒や酸を弾いてくれる。薄いけどすごく丈夫なんだ。それにある程度の寒暖差も気にしなくてよくなるしな。探索でも重宝してたんだ」


「ノービススーツにそんなメリットがあるなんて知りませんでした」


「それだけじゃないぞ。適度に加圧して体の動きをサポートしてくれるし、いざという時は筋力を増強することだってできる。おまけに常時身に着けているだけで肉体を強化し続けてくれるんだ」


 三人娘は俺の話を聞いてポカンとしている。


「今の俺がそこそこ動けているのはノービススーツのサポートのお陰だよ。アームドコートがなくても意外となんとかなるものなのさ」


 思っていたより反応が薄い。

 常識では考えられない説だから彼女たちの反応もわからないでもないんだが。


 そういえばニモフィラに語った時にも同じような反応されたなあ。


「このことを知っているのはジニアさんだけですか?」


「どうだろう。もしかしたら塔に入ったことのある奴は経験的に知っているかもな」


 マグノリアと話す時に聞いてみようか。

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