第6話 久しぶりの授業

『もしもし原田です』

『先生。今日は色々ありがとうございました。番号教えてましたっけ?』


『今日、監査請求の書類書いて貰ったじゃないですか』

『あ、そうだったですね。どうされましたか?』


『さっきは金子君が居たから聞けなかったんだけど、あれ、どうやったの?』

『あれって?』


『子猫の怪我。治したの遠藤さんだよね?』

『あ。やっぱり気付いてました? うまく誤魔化せたかと思って安心してたのに……』


『そりゃ気付くよ……』

『ちょっと今日は色々あり過ぎちゃって……明日学校が終わってから又お邪魔させて頂くって事でいいですか?』


『はい。了解しました。それとね、もう一ついいですか?』

『何でしょうか』


『僕の所に遺産相続の件で申し込みをした事は、100%完全に信用できる人以外には内緒にして置いてください』

『それは何故でしょうか?』


『総額で3億円を超える案件です。恐らく遠藤さんの伯父さんは監査請求とかあると非常に困る立場に追い込まれます。その時にですね。例えば今、遠藤さんが死んでしまったらどうなりますか?』

『遺産は全て伯父さん達の物になる?』


『そうです。犯罪者になるのか億万長者になれるのかの岐路に立たれているわけです。遠藤さんの伯父さんは。そうすれば当然、事が明るみに出る前に遠藤さんを殺してしまおうと考えても何の不思議も無いのです』

『まさか…… そんな事まで』


『そのまさかの出来事が普通に起こるのがお金の魔力なんです。そこで提案なんですが、明日の午前中に私は家庭裁判所で所定の手続きを済ませます。先方へ連絡が行くのは早くても明後日の午前中です。それ以降は狙われてしまっても何の不思議もない状況になりますので、明日、学校が終わった後、私の事務所へ来ていただいてからは、そちらの自宅へ帰らないという選択をお勧めします』

『そんな事を言われても、私はホテルとかに泊まるお金もないですし……』


『今日一緒に食事をした金子の家で、ある程度の期間過ごしていただけないでしょうか?』

『良いんですか?』


『大丈夫です。本人も既にそれを了承していますので』

『何から何までありがとうございます。お言葉に甘えさせて頂きたいと思います』


『それでは明日。おやすみなさい』

『おやすみなさい』


 衝撃の事態に頭がついて行かないよ。

「ねぇさやか」

「どうしたのソフィア?」


「今の話の内容だと、ここに襲撃者が来ると言う事だよね?」

「絶対とは言わないけど先生はその可能性があると思っている様だね」


「それならさ、今隣は空室だよね?」

「うん。この二か月は誰も住んでいないわね」


「ちょっと仕掛けをして行かない?」

「どんな?」


「任せなさいって、今やると寝れないから明日の朝にやるからね」


 そう言って早めの眠りについた。



 ◇◆◇◆ 



 朝方ソフィアに体を預けると仕掛けを施して、私は最低限の着替えなどを持って学校へと向かった。


「あーあ。金子さんの家にお泊りは良いんだけど、このボロボロの部屋着や下着を見られたら恥ずかしいな」


 そう言いながら学校へと向かった。

 

「ねぇさやか? 緊張してる?」

「うん二か月ぶりだからクラスの子たちの視線とか考えたら、ちょっと緊張するよ」


「じゃぁね、今から学校が終わるまでは私に体を任せなさい。悪いようにはしないから」

「う、うん。任せていい?」


「大丈夫!」


 そう言ってソフィアに任せると、教室に向かって良き引き戸を開けると大声で全員に聞こえる様に「おっはようございまーす!」と元気いっぱいに挨拶をした。


 クラスのみんなは、目を真ん丸にして私の方に注目して「お、おはよう……」と挨拶を返してくれた。

 その後はみんな、ちょっと私と距離を空けてヒソヒソ話したりしてたけど、私に直接何かを言ってくる人も居ないまま朝のホームルームの時間を迎えた。


 担任の杉下先生が教室に入って来て私と目を合わせると、本当にうれしそうな表情をして「おはようございます。今日は久しぶりにみんな揃ってるね。先生は超幸せです」とクラスのみんなに笑顔で言った。


 出席確認をしてホームルームも終わり1時限目が始まる迄の時間になると、中学校時代からの同級生が声を掛けて来た「さやか。何があったの? 来なくなって心配してたけど、さやかのご両親の事があったから私達もどう声を掛けていいか、わかんなくなっちゃって、ごめんね」

「うん。もう大丈夫だから。これからは昔のように元気なさやかで居ようと思って頑張るから、また仲良くしてくれるかな? お小遣い無いから、お金のかかる遊びは付き合えないけどね!」


「うん。こちらこそよろしくね」


 どうやらソフィアの言う通りでうまく切り抜けられたようだ。

 私、なんでこんな簡単な事が出来なかったんだろう……

 もしかして私の消極的な姿勢が負の連鎖を生み出して、悪い霊とかの影響を受けちゃったりしたのかな?


『ねぇソフィア。もしかして私って悪霊が憑いてたりした?』

『えーとね。それは解らないわ。そうだったとしたら、私が宿った瞬間に浄化しちゃったと思う、なんて言っても私は……』


『聖女様だから?』

『その通り』


 それから久しぶりに授業を受けた。

 二か月も休んだから授業は随分進んでいて、な部分もあったんだけど、授業中もソフィアに身体を任せたら、教科書をパラパラとめくる様な感じで読み始め、5分ほどしたら『大丈夫! この本に書いてあることは全部覚えたわ』と言い放った。

 何を馬鹿な事を? と思ったけど、さっきまで意味不明だった授業が全部理解できてることに気付いた。


 聖女のスペックぱねぇっす!

 午前中に主要教科の。国語総合、世界史B、数学Ⅱ、物理と授業があったけどそれぞれの授業中に全部教科書をめくって内容を理解したソフィアのお陰で、私の授業の遅れは一気に取り戻せた。


 午後は芸術の選択科目で私は音楽だから杉下先生の授業だった。

 この科目は元々、中学生までずっとピアノをやっていた私には、とてもイージーだから大丈夫。


 そして今日の最後の授業はコミュニケーション英語Ⅱの授業だった。

 そこでも私は驚愕する事になる。


 この学校ではこの授業は、アメリカから来た外国人の教師が授業のすべてを英語だけで行う時間で私は超苦手だったんだけど、何故か全てネイティブで理解できてしまって、久しぶりに参加した私に対しても容赦なく『あら遠藤さん久しぶりね? あなたはこの授業はそれでなくてもぎりぎりだったのに、こんなに休んでたんじゃ進級は難しいわよ?』的な事を勿論英語で早口で言われたんだけど、普通に理解して『頑張りますから留年は勘弁してください』的な事をネイティブな発音で伝えると、とても驚いた表情で『あなたはアメリカ留学にでも行ってたの? 発音も理解もパーフェクトよ』と褒められてしまった。


 まじ聖女ぱねぇっす。


 そしてその日の授業を切り抜けて、『原田省吾法律事務所』へと向かう事になった。

 その前、終礼の後に杉下先生に呼ばれて「遠藤さん、久しぶりの授業で疲れなかった? でも、あなたが休んでる間にただ遊んでたんじゃ無くて、一杯勉強も頑張ってくれていた事が解って、先生は安心したわよ。どの先生もあなたを褒めていたわ。特に英語のキャシーは絶賛だったわよ」と伝えてくれた。

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