第2話 私の中の人?

 私の後ろには、巨大な建物が建っている。

 いや、後ろだけでは無い。


 見渡す限り、王宮よりも背の高い高価なガラスをふんだんに使った様な建物だらけだ。

 硬い地面に広い道沿いに、街路樹が立ち並ぶとても綺麗な街だ。


 私の居た聖教国でも王宮前の広場は石畳で舗装されていたけど、こんな継ぎ目も無いような硬い地面は始めて見た。

 何故か道には見た事も無いような、文字が書かれていたりするのに、読めるし意味が解る。

 それよりも何? 私は『ソフィア』ってイメージするのと同時に私は『さやか』とイメージできる。


 しかも『さやか』な私は、(ここは天国なの? 代々木の街と同じ街並みってどういう事なの?)とか脳内で呟いてる。


 私は『さやか』に話しかけてみる事にした。


「ねぇさやかさん?」

「ヒャッ誰ですか? 閻魔様?」


「閻魔様って誰よ? 私はソフィア。 聖教国の聖女だよ。どうやらドラゴンに殺されちゃって、貴女の身体に意識だけが移っちゃったみたい……」

「えっ? 私死ななかったんですか? マンションの屋上から飛び降りたのに……」


「え? 何よそれ。自分で死のうとかしてたの? そんな事したら神様から罰が当たっちゃうわよ。どんなに生きたいと思っても、願いが叶わなくて失われて行く命だってたくさんあるのに。生きてさえ居れば幸せは自分の行動次第で必ず訪れるの。それが女神様のお言葉だから」

「そんなの……意味わかんないです。両親もお兄ちゃんも居なくなって、残されたお金も親戚にいいように使われて、私がどんなに惨めな思いで一人寂しく生きているのかだなんて、貴女は何も知らないじゃないですか」


「ん? ちょっと待って。あなたの記憶を読めそうだわ。少し黙ってて。あなたも私の記憶を読める筈よ。ちょっと頑張って私の記憶を読み取ろうとして見て」

「何訳の分からない事言ってるんですか…… 人の記憶を読み取るなんて…… あ…… 勝手に私の中にあなたの人生が刻まれて行く」


 それから1時間程の時間をマンションの前の歩道にさやかは立ち尽くした。


「そっか。あなたもつらい思いをしたんだね。でも、愛情いっぱいに育てられた素敵な思い出もたくさんあるじゃ無いの。私の居た国ではそんな素敵な思い出さえも持たない孤児たちが沢山いたわ。私は聖女として孤児たちが少しでも大人になるまで育って、自分の力で生きて行けるように応援してあげる事が生き甲斐だったの。だから、さやかも頑張れ。私が一緒に居るんだから無敵だよ? なんてったって私は聖女なんだから」

「無敵って…… ドラゴンに殺されたくせに。嘘つき」


「死んでないじゃん。ちゃんとさやかの中で生きている。さやかと私で力を合わせれば、この世界でも出来ない事なんて何もない筈だよ? だって私は……」

「聖女様だから? 私に聖女として生きろとか言うの? 一人ぼっちで友達もいないのに」


「ねぇ、私、学校って言う所に行ってみたいわ。私は5歳のころからずっと教会に居たから、学校に通うのが夢だったんだ」

「学校なんて行きたくないよ。誰も話し掛けてもくれないし……」


「大丈夫。お話がしたい時はね。話し掛けて貰うんじゃ無くて、自分から話し掛ければいいんだよ!」

「それが出来れば苦労はしないよ」


「だってあなたの記憶の中、ご両親たちが居た時には友達も沢山居たじゃ無いの?」

「今どきのJKは付き合いにもお金がかかるの。貧乏な私なんて相手にして貰えないんだよ……」


「それは、さやかが勝手にそう思ってるだけだと思うよ? それにあなたはお金は両親が沢山残してるじゃ無いの。親戚の伯父さん達から取り戻せばいいんだよ」

「そんな事出来るの?」


「私は教会でいろんな人の懺悔も沢山聞いていたし、法律? それは国によって違うのかもしれないけど、私が知ってる限りはどんな国だって、法律自体はそんな理不尽な事を許される様な法律じゃ無い筈だよ」

「でも…… そんな法律の事なんか私じゃさっぱり分かんないし」


「法律なんて言うのは、それを専門に仕事にしている人って居るでしょ? そんな人に任せればいいんだよ。さやかが知ってる必要は無いと思うよ?」

「高校生でも相手にして貰えるのかな?」


「大丈夫、私は聖女なんだから。その人が悪意の人か善意の人かなんて簡単に解るんだから。まっかせなさーい」


 そう言って、ソフィアが私の記憶を読み取った事で覚えた、私の通ってる高校に向かって歩き始めた。

 でも…… ソフィアの記憶の中にある魔法とか、錬金術とか…… もしかして私が使えちゃったりするのかな?


 それを考えると、ちょっと気分が上がって来た。                   

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