本編 セッション1 『初めての依頼』

第1話 導入 出会いはいつだって突然に

 第一の剣、“調和の剣”ルミエル。

 第二の剣、“解放の剣”イグニス。

 第三の剣、“叡智えいちの剣”カルディア。


 三本の魔剣によって創られたといわれている世界、ラクシア。古くより人族と蛮族が争っている、この剣と魔法の世界の――小さな一つの地方都市から物語は始まる。


 これから紡がれゆく冒険譚の舞台は、アルフレイム大陸の地方都市アゼル。大陸西部にある『ブルライト地方』に存在する都市の一つであり、南部にある“水の都”ハーヴェス王国から北に歩いて二日ほどの距離に位置していた。


 人口七千人程度の小都市。にも拘わらず、その街中は多くの“冒険者”でごった返していた。彼らが求めているのは、富や名声、そして知識や力。この世界で生きていく上で必要不可欠なものであり、彼らはそのために危険に飛びこむこともいとわない。


 このアゼルという街に、一攫千金を求める者が増え始めたことには理由がある。


 《大破局デアボリック・トライアンフと呼ばれた、世界規模の巨大天変地異と蛮族の大侵攻が起きたのが三百年前。それによって滅びた“魔動機文明時代”の遺跡都市が付近で見つかり始めたことで、失われた知識や地下に眠る財宝を求めるものが後を絶たなかったのである。


 冒険者一人一人には目的があり、そして冒険がある。全く異なる過去を持ち、歩んできた人生も様々。それらを背負い、彼らは夢を、未来を求めて旅をする。


「もしかして、貴方ってここの所属冒険者ギルドメンバーなのだわ?」

「……いや、僕は冒険者になるためにここに来たから。厳密にいえば、まだギルドメンバーではないよ」


 そうして今日こんにちもまた、新たな若人が冒険者ギルド支部を訪れるのだ。


「それじゃあそれじゃあ、アタシとお揃いなのだわ! んふふ……さっそく運命を感じる出会いがあったわね……!」


 新たな旅立ちに向かおうとするのは、背は低いが大きな両手剣を携えた赤いお団子頭の少女と、淡い紫のクセッ毛頭に片目が隠れてしまう程の大きな花を咲かせている青年。


「アタシの名前はミラリア。これからよろしくなのだわ!」

「まだ少し気が早いと思うよ。まぁ……挨拶ぐらいはしておくけど」


 まだ冒険者ですらない二人だったが、ミラリアの方は既に共に冒険する気満々の様子。『そんなに簡単にいくものなのかな』と疑問に思いながらも、リュウカは軽く挨拶を返した。


「僕の名前はリュウカだ。よろしく、ミラリア」


 二人で軽く握手を交わした後、ミラリアが勢いよくギルド支部の扉を開いた。






 期待に胸を膨らませた彼女の視界に入ったのは、こじんまりとしたラウンジと二階へと続く階段。そして、ギルドカウンターに立っているギルド嬢と、その内側で何やら書類を整理している男の子だった。


「お二人とも、冒険者登録かしら?」

「よろしくお願いするのだわ!」


 本来ならばいろいろと手間が必要な登録受付も、紹介状があれば手早く済ませることができる。幸いにもミラリアは村の村長から、リュウカは教会の神父から渡された紹介状を持っていた。


 さっと内容に目を通し、二人の持っていたそれが確かなものだと確認すると――ギルド嬢がカウンター内の誰かへ呼びかける。


「支部長、新しい冒険者がウチの所属として登録したいと」


「支部長……! きっと筋骨隆々のおじさまなのだわ!」

「しっ……! 聞こえたら失礼だよ」


 緊張に自ずと身を固くする二人。

 ギルド嬢へと返事がきたのは、その数秒後のこと。


「はいはーい、今行きます!」


 二人が『おや……?』と思ったのも当然のことだった。元気のよい返事をして、慌ただしく書類を収め、こちらへとぱたぱたと駆け寄ってきたのは――他でもない、先ほどミラリアが見ていた男の子だったのだ。


「――ようこそ、冒険者ギルド支部栄光の架け橋亭へ! 僕の名前はマルコ・フェリーニ。このギルドの支部長をしています。新しい冒険者は大歓迎です!」


 丁寧なお辞儀で迎えた後に見せる笑顔は、活発さと利発さを兼ね備えていた。


「なっ……」


(こんな小さな男の子が、ギルドの支部長をやってるのだわ……!?)


 驚きに言葉の出ないミラリアの様子には気づかないまま、マルコはこの町の現状やギルドについていろいろと説明をしてくれる。


「最近は蛮族の動きも活発で、正直人手が足りていないんです。町の中でも行方不明者が出たり、変死体が見つかったりと、なんだか物騒で……」


「物騒どころの話じゃないのだわ……!」


 小都市とはいえども、都市であることには変わりない。村から出てきたばかりのミラリアは『やっぱり都市ともなると、事件も一筋縄ではいかないものばかりなのだわ……!』と顔を青ざめさせていた。


「そのせいか、いろんな依頼が舞い込んできています。お父さんが病気で寝込んでしまったから、僕が支部長代理を務めているんですが……」


「お父さんが……それは大変ですね……」

「とっても立派なのだわ……」


『少しでもお役に立てるよう、たくさん依頼を取ってきますね』と未熟者ながらも頑張ろうとする健気さに、リュウカはともかくミラリアは心を打たれていた。


 そして――マルコの頑張りは、確かに形になっているようで。ギルドカウンターの反対側の壁には、各所から彼が取ってきたのであろう、数々の依頼が張り出されていた。


「簡単そうなものから、よく分からないものまで! 盛りだくさんなのだわ!」

「こういうのを、『よりどりみどり』と言うのでしょうね」


『いいギルド支部長と巡り会えた』と褒めたたえる二人の声に、マルコも思わず照れてしまった様子で。口元をほころばせながら、『えへへ……』ポリポリと頭を掻く。


「それもこれも、お父さんが街のいろいろな所と繋がりを作ってくれていたからです。ギルドの支部長としては、まだまだ僕も未熟者。所属している冒険者の皆さんと共に、頑張っていきます!」


 まだ無邪気さを残した少年の笑顔は、突然に押し付けられた責任などは一切感じさせない。むしろ、父の代わりに、父以上のギルド支部長に、と意気揚々な様子だった。


「さっそくですが、本日から依頼を請けられるのですよね? 依頼をこなしていく中では、一人では厳しい場面もあるでしょう。できれば複数人のパーティを組むことをオススメするのですが……。もう、お二人で組まれているということでよろしいですか?」


「いや、ま――」

「そ、そうなのだわ!」


 もう少しギルドの話を聞いてから、誰と組むかを決めようと考えていたリュウカに、思いっきり被せるようにしてタッグを組むことを主張するミラリア。


「ギルドから誰か斡旋という形は――」

「どんな依頼も、アタシたち二人で頑張るのだわ!」


 この《栄光の架け橋亭》の前で出会ったその瞬間から、その見た目に魅かれていた彼女。こればっかりは、頑として譲るつもりはない。


「え、えーっと……」


「……もう、それでいいです。もう少し考えようと思っていただけで、別に断らないといけない理由もないですから」

「やったのだわ! 愛の勝利よっ!」


 戸惑うマルコと、呆れるリュウカと、喚起の雄たけびを上げるミラリア。

 前途多難な二人の冒険が、これから始まる――

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