第3話 「確認させていただきます」

 琳寧はなぜここまで来たか話し出そうと口を開いた。だが、途中でナナシの存在の方が気になりだしたらしく。来た経緯よりまず先に、彼について色々質問し始める。だが、どれも「答えられません」の一点張り。どんな些細な事でも答えてくれなかった。


「もし、私の正体が分からなければご依頼できないのでしたら、お引き取り下さい」

「え、いや、その──」


 彼女は何か言おうと再度口を開くが、言葉が繋がらず閉ざしてしまう。


「さて、どうしますか?」

「……依頼、させてください」


 ナナシの問いかけに琳寧は頭を下げ、妖しい雰囲気を纏っている彼にお願いした。


「かしこまりました。貴方のご依頼、お聞き致します」


 その言葉を口にした瞬間、ナナシは口元に歪な笑みを浮かべた。




「では、早速貴方のご依頼内容をお聞かせ願えますか?」

「はい。……最低な女子がいたんです」


 琳寧が口にした内容を簡単にまとめると、自分の彼氏を親友だと信じていた人に取られた、と言ったものだった。


「なるほど。その場の状況や、何か証拠となるものはありますか?」

「えっと……」


 ポケットから携帯を取り出し、彼女はナナシに渡した。


 渡された携帯の画面には、ショッピングモールで一人の男性と女性が楽しそうに話しながら歩いている姿が写されていた。

 手元を見ると、仲良く手を繋いでいるようにも見え、傍から見たら恋人同士に見える。


 女性は茶色の短髪に、長袖の服にワイドパンツを着用している。

 男性の方は耳が見えるほど短い黒髪で、白いTシャツを着ており、ダメージジーンズを履いていた。


「男性の方が私の元彼になる予定の人です。名前は加藤翔かとうかける。それで、女の方は元親友の樹理香苗きりかなえです。その二人が──」


 途中で言葉を切った琳寧の顔は赤くなっており、目は吊り上がり、下唇を噛み怒りを我慢している。


「落ち着いてください。確かにこれは立派な証拠になりますね。他には何かありますか?」

「……そういえば、私が翔と居る時、必ずと言っていいほど香苗は、いつも近くに居ました」

「翔さんの行動で、何か不思議に思ったことなどはありませんか?」

「翔に? 特には……」

「そうなんですね。三人で居る時の写真などはありますか?」


 ナナシは持っていたスマホを一度琳寧に返し、問いかけた。


「ありますよ。よく三人で買い物とかしてたから」


 再度画面を操作し携帯を彼に渡した。受け取った彼は、表情一つ変えずに画面を見始める。


 一緒にジュースを飲んでいたり、食べ物と写っている物や、三人が肩を組んでいるのもある。

 どれも楽しそうに笑いながら写っているため、怪しい写真などは無い。だが、香苗の服装はいつも長袖や長ズボンと、肌の露出を隠しているような服装を身につけている。

 他の二人は、半袖や半ズボンなどが多いため、浮いている感じがする。


「…………おや?」

「どうしたんですか?」

「……いえ、少し気になっただけです。自己完結しましたので、お気になさらず」


 ナナシが手を止めた写真には、琳寧と香苗が肩を組んでいる姿が写っていた。インカメを使っているらしく、香苗は右手首から写真に写っている。その見切れている部分には、不自然に白い何かが見え隠れしていた。


「ありがとうございます。こちらはお返ししますね」


 ナナシは笑みを浮かべ、携帯を琳寧に返した。


「では、最後にいくつか確認させていただきます」

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