貴方の復讐、お手伝い致します

桜桃

第1話 「お聞かせ願いましょうか」

 ストレートな黒い髪、藍色のロングコート。

 切れ長な赤い瞳が見つめている先にあるものは、周りの緑を照らしている青い炎。

 その中にはが見える。何が燃えているのか。その青年は何を思っているのか──


『貴方の依頼はやり遂げました。またのご依頼、お待ちしております』


 小さく呟く青年はロングコートを翻し、薄笑を浮かべながら、闇の中へと姿を消した。


 ☆


「ムカつく。むかつくむかつくムカつく!!!! あの女!!! 私の彼氏を奪いやがった。許さない。絶対に許さない。殺してやる!!!」


 憎悪が込められた憎しみの言葉を呟きながら一人の女性がふらふらと歩いている。目を血走らせ、涙を浮かべながら。ただ、ひたすらに前だけを見つめて。


 学校指定の深緑色を主体としている制服。膝ぐらいのスカートが彼女の歩くリズムに合わせてゆらゆらと揺れる。


 今、女性が歩いている場所は人気が全くない道。もう、人の出入りがないらしく、周りに立ち並ぶ建物はぼろぼろ。ドアが外れそうになっていたり、窓が割れていたりとひどい有様。

 蜘蛛の巣も張っており、埃が宙を舞っている。鳥の声や葉が重なり合う音すら聞こえず、風の音だけが静かに響いていた。


 そんな中、一つだけ。まだ人が住めそうな建物が、崩れかけの建物に挟まれ建っていた。


 外装は周りの家と同じですごく古く、壁画が剥がされている。体当たりでもすればすぐにでも壊れてしまいそうに思える。だが、周りの建物と比べるとまだ崩れている部分は少なく、雨風は防げそうに見える。


 彼女は前だけを見続け、歩みを進めていた足をその建物の前で止めた。

 振り返り、建物を血走った瞳で見あげる。

 荒かった息を整え、見あげた瞳を閉じられているドアへと向けた。


「ここで、私は!!」


 欲望のまま、大きな足音を響かせドアへと近づき、ドアノブに手を伸ばす。

 汗が額からにじみ出て、頬を伝い地面に落ちる。血走らせている瞳は揺れており、ドアノブを握っている手は、カタカタと震えていた。

 それでも、意を決して。彼女は、ドアが壊れそうなほどの勢いで引く。ガタンという音が静かな空間に響き渡った。


 目を見開かせ、部屋の中を見渡す。すると、中には一人の青年が背中を向けて、立っていた。


「貴方のご依頼、お聞かせ願いましょうか」


 男性にしては高く、柔らかい声が彼女を出迎えた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る