第4話

 学校が終わってのんびりしていたら雪野さんから連絡が来た。


 あの後、ヤンキーとのバトル後に連絡先を交換したのだ。

 暫くというか二度と連絡なんて来ないだろうと思っていたから驚いた。

 内容はと・・・・・・。


『ごめんなさい、理由は後で言うからロボセンターに来て欲しい』


 たった一言だった。

 嫌な予感がするけど行くしかないよね。

 父さんと入れ替わる形で帰ってきた母さんとヒバナにロボセンター行ってくる事を告げてアタシはセンターへと向かった。


――ロボセンター。


「溫井さん!」


「ごめん、待った?」


「ううん、大丈夫? こっちこそ急にごめんなさい・・・・・・」


「その事なんだけど、理由ってのは?」


「実は・・・・・・」


 雪野さんから語られた内容にアタシは心の中で叫んだ。


 あのマスゴ・・・・・・、ごほん、桝ココミと月下カイのコンビが雪野さんの家に侵入し、そこで桝ココミがアタシの名前を出したという。

 しかも、侵入したのはアタシのせいだと言ったとか。

 なんだそりゃ!?

 それで雪野さんの双子の兄が興味を持ってアタシとバトルしたいって言い出したと!?


 ふざけんな。


 ふざけんな。


 ふざけんなよ!? あのマスゴミ女!!


 雪野さんの兄、雪野マフユは主人公のライバルキャラだ。

 ライバルとの対決、絶対に主人公ルートじゃねえか!!

 どうすんだよ、本当に!?


「溫井さん・・・・・・?」


 いかん、また自分の世界に入ってしまっていた。


「ごめん、色々と衝撃すぎて・・・・・・」


「うん、仕方ないよ。本当にごめんなさい」


「いや、雪野さんが謝る必要ないよ。悪いのは、あのマスゴミ女だ」


「マスゴミ?」


「気にしないで、さあ! 行こう!」


「う、うん」


 いかん、失言をしてしまった。

 雪野さんからマスゴミの質問をされない内にセンターに入ろう。


 それにしても雪野マフユか・・・・・・。


 雪野マフユ。

 勇気ユウマが憧れのバトラーなら雪野マフユは生涯の、お互いを磨き合うライバルだ。

 青みがかった銀髪に整った顔立ち、それに頭も良い、だけど、性格は嫌みでギザ、自分が実力を認めない存在には高慢、容姿は良いけど性格に難ありな金持ち系ライバル。

 そして、妹である雪野さんを非常に溺愛しているシスコンキャラでもある。

 桝ココミに唆され桝ココミ達と一緒に雪野邸に侵入した主人公を雪野さんが庇ったのが原因で妹を誑かす悪い男と言ってバトルを申し込む程。

 あ~、アタシも妹を悪い道に引きずり込む女と思われてるのかな。


「兄様、溫井さんを連れてきました」


「そうか、ハナ、ありがとう」


 ロビーのソファー。

 腕を組み座っていた雪野マフユが立ち上がり、アタシの方を見る。

 うわぁ~、何か言われるのかな・・・・・・?

 もうこうなりゃ、自棄だ!!


「初めまして。溫井ホノオと言います」


 アタシから挨拶だ!!!!!!

 穏やかに敵意がないよって伝えるために!!

 普通に挨拶!!


「・・・・・・・・・・・・君が溫井さん?」


「はい、そうですけど」


 なんだ、さっきの間。

 え? 逆に普通の挨拶はヤバかった?


「いや、すまない。君が溫井ホノオさんか。ボクの名前は雪野マフユ、ハナの双子の兄だ。

 ハナと仲良くしてもらっているようで、非常にありがたい。ハナは人付き合いが苦手だからね。

 それにしても、君のその紅い髪、とても綺麗だ。よく手入れをしているみたいだね」


「は、はい?」


 なに、本当になに?

 コイツ、こんなキャラだったけ?

 開口一番に嫌み言うキャラだったよね??


――――――


 雪野マフユはモテる。


 性格に難有りだが、実家は金持ちでイケメン。

 チヤホヤされる事は好きだが、慣れ慣れしくされるのは嫌うマフユは一定の距離を保ち自分から距離を縮める事は一切無い、そのせいでマフユの妹であるハナはマフユに近づく為の踏み台として散々利用された。

 だが三年前、マフユがアメリカに留学することが解るとハナと親しくしていた者達はハナを遊びに誘わなくなった。

 薄々、自分が兄に近づく為に利用されていることは解っていた、解ってはいたがハッキリとその事が表面に現れた事で心が折れ、人と接する際は無表情、冷淡な態度がデフォになってしまった。


 この事にマフユは悲しみ、そしてハナを利用する人間を、女を嫌悪するようになった。

 

 だが、今日、侵入してきた少女がある人物を悪く言い始めるとハナは怒鳴った。

 あのハナが、自分のせいで人を拒絶するようになったハナが怒鳴ったのだ。

 だから、興味が湧いた。

 興味が湧いたというのもあるがハナにそれほどの影響を与えた人物がどういう人間か見定めるというのもあったが。


 そして、ハナがホノオを連れてきた時、いやホノオを一目見た時、マフユに稲妻のような衝撃が走った。


「初めまして。溫井ホノオと言います」


 紅い髪に青い目、媚びること無く挨拶するホノオにマフユの心臓は走った後のようにドクドクと音を鳴らす。


――綺麗な人だ。


 その日、雪野マフユは恋をした。

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