第5話 跡継ぎはロイに任せる

「ただ、予算が合いません。これは私の拘りで作ってみただけですので、ミノタウロスのスジ肉なんて中々手に入りませんから。」


「ミノタウロス?よく手にはいりましたね。」


「学園のダンジョンで食材集めをしていたときに偶然遭遇したのです。」


 そう私が言うと聖女様はああ、と納得してくれたみたいだった。


 学園のダンジョンは学生なら誰でも入れるのだ。魔力があれば15歳から誰でも入る事ができる王立エピドシス魔術学園に今在籍しているのだが、ぶっちゃけ私には意味が無かった。

 お貴族様みたいに人脈を作るわけでもないし、勉強は庶民である私としては計算が出来るのであれば問題ないものだった。魔術は・・・実はチート並に使えるがこれまた庶民の私にとって宝の持ち腐れの代物だ。

 冒険者になるならそれも必要かも知れないが、私は未来未定のパン屋の娘だ。


 一年で必要な学科を取って卒業試験まで受けた。庶民の学生にはよくあることだ。庶民は働かなければ生きていけないからな。


 学園の卒業試験というのが、30階層まであるダンジョンを一人またはグループで攻略することだった。

 そして、私は食材集めをしながら、試験に挑み、ラスボスがミノタウロスだったということだ。ダンジョンの魔物を倒すとたまにお宝が出てくるのだが、ミノタウロスを倒して出てきたのが、各部位のお肉セットだった。舞い踊ったのは言うまでもない。


 こうやって、聖女様とギルドの併設してある食堂で話しているが、聖女様の周りにイケメンたちがいることには変わりはない。しかし、あのときの私のように、心臓が持たないということはなくなった。私はイケメン耐性を手に入れたのだ。


 聖女様にパンを献上し、完売御礼で空になった籠はお米様を満たして家路に着いた。行きより帰りのほうが重かったが、お米様のためなら、なんてことない。


 路地に入り、裏口から家に入ろうとしたら、ボロ布の塊がドアの横に・・・いや、行き倒れていた人がドアの横に座っていた。私は無視をして家に入ろうとしたら、籠を掴まれた。

 私からお米様を奪い取ろうとする不届き者め!籠を両手で掴み、ボロ布に向かってかかと落としをする。

 悪は成敗された。


 私は鼻歌を歌いながら、家に入っていく。今日の夕食はこだわりのカレーでカレーライスにしよう。甘党の家族は激あまカレーが夕食だ。


 翌朝、弟のロイの機嫌はまだ、悪いままだった。昨日の夕食も何も喋らず黙々と食べ、終わると自分の部屋に戻っていったが、朝にはいつもどおりに戻っているだろうと思っていた。しかし、昨日と変わりが無かった。


「いつまで、怒っている。」


「ねーちゃんが跡を継ぐと言うまで。」


「それは一生ない。」


「じゃ、夏からどうするんだよ。学園も卒業するんだろ?」


「学園?そもそもそんなに行っていない。庶民は家の手伝いを優先していいからな。私は美味いもの探しの旅にでもでるか。」


「なんだよそれ。」


 ロイよ。そんなに呆れた顔をしなくてもいいだろう?


「学園に行ってよかったことが一つある。ダンジョンには美味いモノが転がっている。」


「転がってねーよ。ドロップしただけだろう。」


「そうとも言う。」


「ねーちゃんがパン屋の跡を継いでくれよ。俺じゃ無理なんだよ。嫁に行くって言うなら、諦めるけどさ。口も悪いし、直ぐに手や足が出るし、そんなねーちゃんを嫁に欲しいってヤツいねーだろ?」


 口が悪いのは認めよう。手や足が出るっていうのは仕方がない。ふわふわロールパンを売り出したとき、その作り方を盗もうとした輩が何人、家に侵入してきたことか、それは引っ捕らえるだろう? 


 毎回毎回、警邏の第6師団南支部に侵入者を連れて行くから、変な目で見られるようになってしまった。

 5回目となると南地区の第6師団の人が第6師団長を呼び出してしまい、その師団長に『こんなガキがなんで2人も王都にいるんだ』と言われてしまった。私以外に誰がいるのだろう。

 しかし・・・。


「ロイよ。自分で矛盾を口にしていることに気がつかないのか?私が結婚しなければ跡継ぎがいなくなってしまうことに。」


「はっ!そうだった!じゃ、マジで俺が跡を継がなければならないのか!」


「ミリー大好きロイに任せるのが一番いいのだ。」


「ミリーは関係ないよな。」


 そんなに顔を真っ赤にして反論しなくてもいいだろ。近所の人にロイのミリー好きは知れ渡っているから、みんな温かく見守っているぞ。それに


「大丈夫だ。ロイも私と同じで、母さんの家系の料理スキルを持っているから、問題ない。今まで作ったものを作り続けていれば、店が潰れることはない。」


 そう料理スキル。母親の家系の者は皆持っているらしいので、さして珍しいスキルではないのだろうが、このスキルで凄いところは一度食べたことのある味を再現してしまうことだ。だから、私が苦労して作りあげた激甘カレーを弟も材料さえあれば、作れてしまうのだ。因みに母さんはパン以外の料理はなぜか作れない。スキルを持っているのに作れないのは世界の不思議だ。

 その料理スキルがあることで、私の苦労は何だったのだ!と言いたいところだが、ロイに跡継ぎを押し付けるにはとても便利なスキルだった。


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