第28話 二度目の贈り物は
「欲しいものはあるか?」
ある日の夕方、家に帰り着くなり、テオからそんな事を聞かれた。
「色々あって誕生日が過ぎてしまっただろ?ずっと考えていたんだけど、キーラの欲しいものが分からない。何か欲しいものはあるか?大したものは多分買えないし、泣いて喜ぶ程の贈り物はまだまだ先になりそうだけど」
何か考え込んでいるなぁって思っていたら、それだったのか。
「えー。別に豪華じゃないといけないわけじゃないんだから。ささやかなものを一つ貰ったら嬉しいよ。それに、誕生日プレゼントなんて、初めてのことだし……」
プレゼントの事を考えてくれていた。
それだけで、すでに嬉しい事だ。
「何が、欲しいんだ?」
「えーっと……」
ちょっと、考えてみる。
やっぱり栞かな?
前に貰った奴は、結局置いてきちゃってるし。
あと、本かなぁ。
本屋で見かけたあの詩集は良かったなぁ。
あ、これだと二つか。
でも、どちらかをってよりは、二つセットなんだよね。
可愛らしい栞を、あの詩集に挟んだらって考えたら、心が弾んでくる。
「可愛らしいのか。具体的には?」
あの栞もシンプルで良かったけど、今度はお花がいいかなぁ。
押し花もいいけど、編んだお花の栞もあったなぁ。
白を基調としたレース編みのお花を本に挟む。
本の間から小さなお花が見えてて、可愛いなぁ。
「分かった」
そこで、ハッとした。
思考でテオと会話をしていたらしい。
「あ、待って待って。まだどっちか決めてない」
「本と栞はセットだろ」
「本当にいいの?」
「むしろ、それだけでいいのかと聞きたい」
「買ってもらうことに慣れてないから、その二つでもう十分すぎるよ。貧乏性だよね」
「明日買ってくるから、楽しみに待ってろ」
そう言った通り、テオは翌日の夕方にはプレゼントを用意してくれていて、
「随分と遅くなったけど、誕生日おめでとう」
と、プレゼントと共に初めての言葉を私にくれた。
それは、初めて、生まれてきても良かったのだと思えた瞬間だった。
そんな事を考えていたものだから、
「あたりまえだ」
と、またテオが怖い顔を私に向けて言った。
胸が熱くなって、込み上げてくるものがあって、泣きたくなったのを我慢した事は隠したかったのに、そんな事は無理な話で、こんな時はテオのギフトは厄介だと思った。
「泣いて喜ぶ程の贈り物になったよ。ありがとう」
テオはとても嬉しそうに笑い、私の頭をしきりに撫でていた。
この日から、私の部屋の小さなサイドテーブルには、詩集に栞を挟んだものがいつも置かれている。
寝る前に読んで、朝起きた時にはそれが一番に目につく。
とっても幸せな事だった。
でも、私へのプレゼントはこれだけじゃなかった。
「キーラ先生、お誕生日プレゼントをテオから貰ったって聞いたよ。これ、みんなで作ったの。テオに聞いたら、押し花のしおりがいいって教えてくれたから」
ギルドに行くと、マリーが押し花の栞を差し出してきた。
白い台紙に、ピンクの小さなお花が貼り付けられている。
私が読み書きを教えている子供達、みんなからのプレゼントだった。
こんな素敵なプレゼントを、まさかこの子達から貰えるなんて思ってもみなかったことだ。
「嬉しい。とっても嬉しいよ。大事にするね。みんなありがとう」
精一杯の御礼を伝えたら、子供達も嬉しそうに笑い返してくれていた。
みんなが私に笑顔を向けてくれる。
いつのまにか私は幸せの真ん中にいたようだ。
こんな幸せを手に入れる事など、想像すらできなかったのに。
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