第20話 襲撃

 未来を視せて欲しいとは言ったけど……


 教室に入り、席に着き、テオから借りた本を開いた時に、その光景が視えた。


 なんで、テオに腕を掴まれた時じゃなくて、この本を触った時なんだ。


 自分のギフトの気まぐれさに嫌気が差す。


 視えたのは、隣国、ミステイル王国による襲撃。


 今日は騎士科の騎馬訓練が山道である。


 その山道に潜む多くの武装した男達。


 ミステイル王国の刺客だ。


 一度にこの国に入ってきたわけじゃない。


 少しずつ時間をかけて、内側から食い破るようにこの日の為に備えてきたんだ。


 ギフト所持者だと思われた、王太子リュシアンの暗殺を遂行する為に。


 その為に、多くの騎士科の生徒も死ぬ。


 テオが、リュシアンを庇って真っ先に殺される。


 その光景に、思わず自分の身体を抱き締めて震えていた。


 嫌だ。


 嫌だ。


 そんなの、ダメ。


 間に合って。


 もう授業が始まる直前だったけど、それどころじゃないと、教室から飛び出していた。


 離れた騎士科の校舎へ向けて走る。


「テオ!」


 小さな声だったけど、その人の名前を必死に呼んだ。


 彼は騎士科の厩舎の近くですでに馬を引いていたけど、私に気付いて、驚いた様子でこっちに来てくれる。


 テオの手を引いて人気のないところに連れて行った。


「お願い。私の言うことをよく聞いて。訓練中に、ミステイル国の襲撃がある。二つ目の分かれ道は、左に行ってはダメ。必ず右に行って。正規ルートの左は待ち伏せされている」


「待ち伏せ……」


「お願い。私の言う事を信じて。貴方を死なせたくない」


「分かった。教えてくれて、ありがとう」


 テオの様子から、私の話を信じてくれたと思う。


 そう思いたい。


 彼は、再び馬を引いて集団の中に戻って行っていた。


 祈るような思いで、その背中を見送っていたけど、その後は、気が気でなかった。


 教室に戻る事も出来なくて、騎士科の校舎が見えるその場でずっとテオの帰りを待っていた。


 どれくらい時間が経ったのか、急に校舎周辺が騒がしくなった。


 人が駆け回っている様子を眺めていると、馬に乗った集団が戻ってくるのが見えた。


 その中にテオの姿がないか、探す。


 でも、見つけられなかった。


 ドクンドクンと、心臓が大きな音を立てている。


 心配で、指先も震えていて、それ以上待っていられなくて、近くを通った騎士科の生徒にテオの事を知らないか聞いた。


 幸い、その子は私の知りたい情報を、嫌な顔をしながらも教えてくれた。


 テオがリュシアンを庇って怪我をしたと。それを聞いて、運ばれた先の医務室に走っていた。


 手当が終わって一人で寝かされていたみたいで、すぐ側にある椅子に座ると、テオは目を開けて私を見た。


「なんで、私の言うことを信じてくれなかったの?」


 テオが信じてくれない。


 これ程悲しい事はなかった。


「キーラの言う事を信じていた。だから、リュシアンを救えたんだ。ありがとう」


 確かにテオが襲撃を受ける話を聞いたら、リュシアンを助けるのは当たり前の事だ。


 でも、私は、テオに傷ついて欲しくなかった。


 だから、無意識のうちに、ミステイルの目的がリュシアンを殺すことだと、伝えなかったんだ。


「誰も死んでいない。キーラのおかげだ。怪我だけですんだのは、キーラのおかげだ」


 そうは言ってくれても、テオに対して酷く悪いことをしたみたいで気持ちは沈んでいた。


「キーラ……」


 まだ何か言おうとするテオの言葉を遮った。


「傷に障るから、もう休んでて。寝てるところを邪魔してごめんね」


 テオから視線を逸らして立ち上がると、そのまま彼を見ずにその場を後にしていた。













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