第45話 新京極大飯店

 新京極大飯店



 雨が降っていた。猛烈な湿気が私を包み込み激しく不快だ。


 昨日痛めた足首は今朝になっても痛みが引かずヨタヨタと通学路を進む。この後教室のある4階まで階段を昇るかと思うとこのまま寮までとんぼ返りしてしまおうかとすら思えてくる。


 教室に入って祥太君の席に向かう。


 「ナバちゃん、足どうしたの?」

 「昨日寮の階段で挫いちゃって」

 昨日の出来事は秘密にしておこう。


 私は柳原君の事について簡単に説明した。お兄さんがいたけど病気で亡くなった事にした。ご両親が離婚して苗字が変わった事。事情があって若葉7戦隊の皆には今は会えない事。最後に、若葉7戦隊のメンバーの捜索の中止を進言した。


 柳原君の事情を事前に説明した為か祥太君はそれ以上深く追求せず私の進言を受け入れてくれた。


 「解ったよ。ナバちゃんがそう言うならばそうしよう。みんなには上手く伝えておくよ」と言ってくれた。

 若葉7戦隊の捜索は中途半端に終わってしまった。でもこの活動を通じて私は色々な事を経験出来たし徒労感は無かった。



 「それと、お母さんが中華街のお食事券を送ってくれたの。友達と行っておいでって。祥太君もどうかな?」

 「僕もいいのかい? 喜んで」

 服装だけは気を付けてね。


 お食事券は5枚しかない。誰を誘おうか迷ったけれど同じクラスで仲良くなった人順で決めた。他のみんなごめんよ。


 「新京極大飯店のお食事券じゃん! いいの?」吉安さんはすごく喜んでくれた。

 「松葉君もどうかな?」

 松葉君の肩がピクっと動いて、

 「俺もいいのか?」と言う。


 「うん、5枚しかないし、私の中の基準で決めちゃった」






 「ぎゃはははは、ぎゃははははは……朝霧、なんだよその恰好。ぎゃはははは……」

 ちょっと吉安さん笑いすぎ。あまり祥太君を傷付けないでおくれ。


 その週の日曜日私達は中華街に来ていた。


 「それに水原ー、あんたももうちょっとお洒落がんばりなよ、せっかく素材がいいんだからさ」

 そんなに変かな?

 「服の選び方とか合わせ方がいまいち良くわかんなくて」

 「じゃあ今度一緒に買い物に行こう」

 「ほんと! ありがとう吉安さん」



 食事後、私達は普通の高校生が普通にするように街をぶらぶらしたり、ゲームセンターに行ったりした。普通の事を私は今日初めてした。


 「あれがドゥネブアルタイルブエーガー♪ 君が指差す夏のダイサンカーク♪」

 その後カラオケに行き私は沢山歌った。いままで出来なかった事を発散するかのようにマイクを握り続けた。沢村君は最後まで歌わなかった。聴きたかったのにー。



 「じゃあ俺たちコッチだから。また明日な」

 松葉君と祥太君と吉安さんが駅の方へ歩いていく。


 私と沢村君は寮へと歩き出した。

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