第38話 タイムカプセル

 タイムカプセル



 「6人だったか7人だったか確かめる方法がある!」

 皆が一斉に驚きの表情で祥太君を見る。


 「どうやって?」と私が皆を代表して質問した。


 「みんな覚えてないかな? ほら、あの洋館の水の干上がった池があっただろ? その池の底にガラスで出来たコインみたいなモノが沢山落ちててさ、それをみんながそれぞれ一つづつ持って帰った事をさ」

 祥太君が言っているのは『おはじき』の事であろう。たしか皆でそのおはじきを一つづつポケットに入れた。その後例の音がして皆幼稚園に逃げ帰った筈だ。


 「そうか!」と佐々木君が何か気付いた様子で声を上げる。

 私も心の中で『そうか!』と気付いた。


 「洋館から戻った後にそれぞれが持ち帰ったそのコインみたいなモノを飴の缶に入れて砂場の前の大きな木の下に埋めたじゃないか」

 「うん、覚えてる」と私も頷く。

 佐々木君も黙って頷く。

 佳代さんと霜月さんも覚えている様子で頷く。


 そうだ、それは確かな記憶だ。そしてそれは真実が隠されているタイムカプセルなのだ。


 「それを掘り起こせば判る筈だ」

 確かにそれがまだソコに埋まっているならば6人か7人かを確かめる事は出来ると思うけれど。


 「行くか?」と祥太君が意を決したように言う。


 「え? 今から?」と佳代さんが言う。


 「僕たちは、どうせ、静岡に帰る。だから、問題ない。でも……」と言って佐々木君が私を見る。

 私は壁に掛かっている時計を見た。午前10時45分になろうとしている。今から静岡にいっても正午までには着くだろう。その後、若葉幼稚園に行って飴の缶を掘り起こす。門限までには間に合うはずだ。


 「行こう。ここまで来たら確かめよう」と私は言った。


 「行こう」

 「おけ」

 「行くですー」

 「解った」

 と皆が一斉に立ち上がった。


 私達は小田原駅へとんぼ返りし熱海行きの列車に乗る。熱海で浜松行きの電車に乗り換えた。


 「でも今日日曜だよ? 幼稚園開いてるかな? それにだれか人がいたとして入れてくれるかな?」と佳代さんが当たり前の質問をする。


 「判らない。職員の人がいたなら正直に名乗って事情を説明して入れて貰えるよう頼んでみよう。いなかったら……、僕が一人で侵入して掘り起こしてくる」と祥太君。

 大丈夫だろうか。近隣の人に見つかれば警察を呼ばれかねないと思うのだけれど。





 途中コンビニで園芸用の片手サイズのスコップを一つ買う。

 10年ぶりに訪れた幼稚園。以前は周りは畑ばかりでポツンと建っている印象であったけれど、現在は周りに倉庫や工場などが建てられている。

 もっと大きな建物のイメージだったけれど10年ぶりに見た幼稚園は思っていたより小さいものだった。こんな小さかったっけ。私は裏の林に目をやるけれど、そこにはすでに大きな倉庫が建ち洋館はすっかり無くなっていた。


 門は……、開いている。人がいるようだ。


 「門、開いているだね」と佳代さんが言う。

 皆も黙って頷く。


 「行こう」と祥太君が先だって園の中へ歩き出す。私達も慌てて彼を追う。


 門を通ってすぐにある職員室に一人の年配の女性がいて、私達に気付いたのか少々戸惑った表情で窓越しから私達を眺めている。私達はそこで立ち止まり窓越しに彼女に頭を下げた。


 彼女は窓に近づき鍵を開け窓をスライドさせた。


 「何か御用でしょうか?」



 祥太君が事情を説明した。かつてここの園児だったこと。砂場の前の木の下に缶を埋めた事。今日それを掘り起こしたい事。学生書まで出して身分を証明した。


 「掘った土をちゃんと戻しておいてくれるならいいよ」と女性は言ってくれた。


 「ありがとうございます」と私達は頭を下げた。


 「まだあるといいだね」と女性は微笑んでくれた。



 砂場の前の大きな木はまだあった。問題は缶がまだ残っているかだ。


 「たしかこの辺りだった筈だ」とスコップを持った祥太君が指をさす。私もその辺りだったと記憶している。


 「じゃあ掘るよ」と言い、祥太君は土にスコップを突き立てた。




 幼稚園児達が掘った穴である。そう深くは無いはずと思っていたけれど、案の定すぐさま祥太君が、

 「あった! まだ残っていた!」と言った。


 「おお!」と皆の歓声が上がる。


 缶の周りに着いた土を払い、

 「開けるよ?」と祥太君。


 皆黙って頷く。


 少々錆付いてはいたけれど缶は容易に開いた。皆が一斉に中を覗く。1,2,3……、と数えて、

 「7個だ! 7個あるよ!」


 どういう事だろう。私は頭をフル回転させる。そして一つの可能性を見つけた。保護者は6人。佐々木君の記憶にも6人の園児達の顔。それなのにおはじきは7つある。これを可能にする一つのカラクリに気付いた。


 「祥太君、さっきの写真もっかい見せて」

 「え? ああ」と祥太君がリュックから写真を取り出し私に手渡した。


 私は彼を捜す。きっといる筈だ。そして、見つけた。


 「この子だ!」と私は一人の園児を指差し皆に見せる。皆が一斉に写真を覗き込む。そこには豊川壱成君と全く同じ顔をした一人の園児が写っていた。


 「え? これは、双子?」と祥太君が言う。

 「そうか、そういう事か」と佐々木君も納得した様子で呟く。


 「だからか、僕の記憶、6人の顔しか、無かった。同じ顔が二つあったんだ」

 

 私は言う、

 「やっぱり7人いたんだよ。保護者が6人だったのはそういう訳だったんだよ」

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