第36話 LINE交換

 LINE交換



 翌日早速祥太君に昨日のお母さんとの電話について報告した。

 私の話を聞いた祥太君が、


 「それは確かに有力な情報だね、ナバちゃんすごいじゃん。お手柄だよ」

 ほむほむ、もっと褒めて。中西君の手柄を横取りした罪悪感は日々の暴言のへの対価としておく。


 「保護者会役員の事は僕も母に訊いておくよ。他のメンバーにもLINEで伝えておこう」と祥太君。

 「覚えていてくれるお母さんがいればいいね」

 「そうだね、もうそこに賭けるしかないね」



 祥太君と別れ席に行こうとした時、「水原さん」と声を掛けられた。振り向くと崔さんと上屋敷さんがいた。崔さんが、

 「見て見て」とスマホを近づけてくる。見ると先日の子猫の画像だ。


 「わあ、可愛い。すくすく育っているみたいだね」

 子猫は初め会った時より一回り大きくなっている。健康そうで安心する。


 「子猫の成長を画像で撮って送ってあげようか?」と崔さん。

 「本当? うんうん!」と首が取れるくらいに力いっぱい頷く。崔さんはLINEのQRコードを見せてくれた。LINE交換だー! 私は慌ててスマホを取り出し彼女を登録する。上屋敷さんもと思いチラっと彼女を見ると彼女も微笑んでQRコードを見せてくれた。


 「ありがとう。画像待ってるからー」と言って彼女たちと別れ席に着く。


 席に着くと、

 「水原ー、ほれ」と隣の席の吉安さんがスマホを手渡してきた。画面を見るとLINEのQRコードが表示されている。


 「そういえばまだだったなあって思って。崔達と交換してたみたいだから」と吉安さん。


 「いいの?」

 すると前の席の松葉君がグルリと振り返り、

 「俺もいいか?」とスマホ片手に言う。


 松葉君っていつも私達の話を盗み聞きしてるなあ。


 「いいけど変な画像送ってくんなよー」と吉安さんが松葉君に言う。松葉君は喜々として吉安さんのLINEを登録した。


 「水原、お前のもついでに見せろ」

 ついで扱いの私も自分のQRコードを見せた。


 二人のLINEを登録してから沢村君の席を窺う。中学から知っている人なのに私はまだ彼のLINEを知らない。先日勝手に登録しようとして失敗したし。なんとか交換できないかなあ。


 「水原ー。沢村のは知らないの?」と吉安さんが訊いてきた。沢村君の事を考えていただけにドキっとしてしまう。顔赤くなってないよね。

 

 「うん、知らないんだ」

 「ちぇー」

 私だって知りたいのだ。それに仮に知っていたとしても彼の了承なく教えられないよね。


 「俺が聞いてきてやろうか?」と松葉君。

 え! お願いしたいけど、素直に『はい』と言えない。吉安さん、『はい』と言え、と思い吉安さんを見るけれど、彼女も迷っている様だ。きっと松葉君とならLINE交換はしてくれるだろうけどそれを私達に教えるにはやはり沢村君の了承がいると思う。恐らく了承を得るのも松葉君なんだろうけれど説明の仕方によっては誤解が生ずる可能性も否定できない。

 さりげなく自然な感じで了承を得る事は可能だろうか。私は思っている事を正直に話す。


 「沢村君も松葉君にならLINE教えてくれると思うけど、私達にまではどうかなあ。松葉君も沢村君の了承無しに勝手に私達に友達紹介出来ないだろうし……」

 「そうそう、私もそう思って」と吉安さんも同調し、

 「それに私が沢村に気があるなんて思われても恥ずかしいし」と顔を真っ赤にして吉安さんが言う。

 

 「そんなもん勝手にやっちまえばいいだろ、何気にしてんだお前ら」

 そこ大事だから。


 「一応、さりげなく私達にも教える旨を彼に伝えてくれれば」と私が言う。

 吉安さんも力強くうなずいている。


 「めんどくせーなー、気にしすぎだぜ。女と違って男は女にLINE知られる事なんてなんとも思ってねえからな」

 そうなの? 私達が気にしすぎなんだろうか。それならいいんだけど。


 「どうすんだ?」と松葉君。


 吉安さんは逡巡し、

 「じゃあ、頼む」と言った。


 松葉君が沢村君の席に向かい彼と話している。すると沢村君がスマホを取り出し松葉君に画面を見せている様だ。どうやらLINE交換は無事終了したようで松葉君がコチラに戻ってくる。


 「友達紹介機能ってどうやるんだ?」と松葉君が聞いてきたけれど私もやったことないからわかんない。


 「ちょっと貸せ」と言って吉安さんが松葉君のスマホを奪う。


 「一応お前らにも教えるからなって言っておいたぞ。あんま興味無さそうだったけどな」

 

 吉安さんは色々操作し、

 「水原、行くぞ」と言った。


 私のスマホのLINE着信音が鳴り、私は慌ててスマホを開くと紹介された沢村君のIDを友達登録した。


 沢村君の友達アイコンは男性のシルエットのデフォルトのものだった。


 「松葉君、ありがとう」と私はお礼を言った。


 「水原、ハンバーガー1個な」

 きたー。


 「吉安お前もだぞ」

 「分かってるよ、チキショー」



 私は再び友達リストの沢村君のアイコンを見る。いつかメッセージを送れるといいなあと思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る