3.


「お前が居てくれる限り、俺がこの物語を必ず結末へと導く」


「お前は物語を前へと進め続けてくれ」


浮かび続ける主人公が翻ると、いつの間にか月に向かって落ちていた。






「虚空から虚構が生まれ、そして虚無へと辿り着く」


背後からシオリの声が響く。


振り返ると、黒い棘を威嚇するように大きく出したり引っ込めたりしながら、威圧的な態度をとるシオリがジリジリと迫っていた。


「君はこの物語で何の意味も持たなければ、何を成す事も無い」


「君こそが失敗作だった訳だ」


「俺には読み手が付いている、俺が必ずエンディングへと導く、それが主人公の役割だ」


「そうかい」

「ところで君は、この物語のエンディングが何か知っているのかい?」


主人公は腕を組んで頬の目を閉じた。


「この物語のエンディングとは虚空なんだ、その先にはもう何もありはしないんだ」

「私も君もこの世界も始まる前に戻って、何も無かった事になってしまうんだ」


シオリは黒い棘を徐々に、細く、鋭く尖らせていく。


「君はこの世界を虚空へと導いているんだ、心中とか自殺と一緒だよ」


「俺はそうは思わない」


「主人公、私が話しているのは君じゃない、読み手なんだ」


「虚空に辿り着けばすべては時間の無駄だったと解る、だがそれでは遅いんだ」

「ねえ……読み手よ。君は、どうしてこの小説を読み始めたのか覚えているかい?」


貴方はまだそれを思い出せない。


「主人公、悪いけどここから先への強硬路線は通用しないんだ」


主人公は月に降り立つと、孤独な台座の上に十字剣を刺して納める。


その隙にシオリが主人公に触れると、ゆっくりと雨が降るよりも遥かに遅い速度で、主人公は月から追い出されるように更に上へと弾き出された。

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