9.









「一体何が起こったんだ?」




「本当に君は物語を進めたんだな?」






主人公は手にアゴを乗せた。


「まさか『下から上へ』読み進めた訳じゃないよな?もし文字が読めないのに小説を読もうとしているのなら、今のうちにやめておくんだ」



どうやら背の高い彼は貴方がまだ後ろにいると思って話しかけているつもりのようだ。




彼はまた歩きだすが、後ろへとどんどん巻き戻されていく。


そして彼は黒い棘の塊に深々と突き刺さっている、十字の剣を両手で握りしめた。




主人公はそのまま十字剣を勢いよく引き抜く。


十字剣の色が黒から、この世界と同じ虚構の色へと染まっていく。




剣が抜けると同時に黒い棘の塊は急にもごもごと動き始めた。



「やあやあやあやあ、君はまさか生きているのかい?」


黒く棘だらけの丸い物体が彼に話しているようだ。


「俺は主人公、この人は読み手だ」


「読み手?世界の監視者って奴かい?」


「ああそうだ、読み手が物語を進めてくれる」


「ほうほうほうほう、主人公はあれかい?私達の世界を眺めている誰かがそこにいるって言いたいのかい?」


「読み手は物語を進めるだけだ、俺もお前も読み手無しでは前へと進む事は出来ない……ただ、先ほど俺は巻き戻って虚無へ帰ってしまったが」


「主人公は何処から来たんだい?」


「俺は10の地点からここへ辿り着いた」


黒い棘だらけの丸い物体は、その棘を組み替えるように動かしながら何かを深く考えているようだ。


「ふむ、10の地点にいる主人公と9の地点にいる主人公は、同じ人物ではないと私は考えるよ」


「何故だ」


「虚無へと帰ったモノは2度とこの物語の進む先に現れる事はないから」


「奇妙だな」


「主人公が言う仮説が正しければ、この世界は監視者の娯楽の為に作られた虚構の物語と言う事になるんじゃない?」


そう語ると黒い棘だらけの丸い物体は、彼の後ろにいる貴方を見ているような素振りをみせた。


「一応私も挨拶しておくよ」


「私はシオリ、この世界のいろんな地点を旅しているんだ」



主人公は『この世界を辿る者』を渡して見せた。


「その小説にはこの世界の過去の事が綴られている」


シオリは棘を使って器用にページをめくっている。



「本当だね、この本は実に興味深いよ」


「なぜこの物語は10から9へと進んでいるんだ?」


「君は進んでいるように感じるんだね」



再びゆっくりと主人公の巻き戻りが進んでいく。

それに合わせるようにしてシオリも10の地点へと向かっていった。


「時間って奴なのかな?この世界の真実に一歩近づけたよ主人公!ありがとう、またどこかで会おう」


「ああ、10には虚無があるから気をつけろ」

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