第6話 二人の思い

 どういう理屈かは知らないが、どうやらインフラは使い放題のようだ。


「後で請求が来たりしないよな...」


 異世界にどうやって請求が来るんだか。ユウは自分で言って笑ってしまった。その頃、アリィは自分の部屋で普段着に着替えていた。


「自分の部屋なのに自分の部屋じゃないってなんか変な感じ...」


 アリィは改めて自分の部屋を見回しながら呟いた。一方、ユウは台所で冷蔵庫を開けたり、戸棚を開けたりしていた。


「さすがに中は空っぽか。中身まではイメージ出来なかったということかな」


 次にリビングに移った。TVがある。リモコンを操作して電源を入れる。当然、何も映らない。


「まぁ当然か。スマホも圏外だったしな」


 そう、二人ともスマホは真っ先にチェックしていた。


「お待たせしました」


 アリィが戻って来る。女子高生の私服姿に挙動不審になるユウ。


「あ、あのさ、出来れば男モノの服をイメージしてくれると助かるんだけど...」


 アリィを直視出来ず、微妙に視線を外しながらユウが言った。


「あ、すいません! 私ったら自分のことばかりで、今やりますね、エイッ!」


 現れたのはスーツだった...微妙な空気が流れる。


「す、すいません...父をイメージすると、どうしてもスーツ姿しか思い浮かばなくて...」


「ああいやいや、気にしないで。スーツでも全然オッケーだよ。でも出来ればスウェットでもジャージでもいいから部屋で着るモノが欲しいかな。あと嫌でなけれは下着もお願い出来ると助かる...かなと」


 最後の方は尻すぼみになった。


「い、今やります!」


 アリィは顔を赤くしながらイメージした。



◇◇◇



 チャポーン...


 今、アリィはお風呂に入っている。ユウに先に入るよう勧めたら固持されたからだ。しかもアリィが入ってる間、家の外に出ていると言って、アリィが止める間もなく飛び出して行ってしまった。


「そこまで意識しなくていいのになぁ」


 どうやらユウは自分がオッサンであるから、女子高生であるアリィに避けられてると思い込んでるようだ。


「ユウは普通にイケオジだと思うけどなぁ。背も高いし、意外とガッシリしてるし。若い頃は相当モテたよねぇ」


 そう、離婚歴があるせいか、自己評価の低いユウであるが、アリィの目にはイケメンに映っていた。


「きっと奥さんも子供もいるんだよね。その内話してくれるかな...」


 そんなことを思いながら、次に入るユウを待たせないように手早く風呂を済ませた。風呂から上がり、脱衣所で着替えている時、アリィは僅かな違和感を覚えた。


「ん? 気のせいかな? ブラが少し緩くなったような?」


 その時はあまり気に留めなかった。早く外に出てるユウを呼ばなきゃ。アリィは風呂場を後にした。



◇◇◇



 チャポーン...


「まさかこんなことになるなんてなぁ」


 大雨に降られて、雨宿りして、女子高生がいて、落雷にあって、気付いたら異世界で、女子高生が一緒で、猪モドキに襲われて、バリヤに守られて、それが自分のチートで、腹が減ったらハンバーガーが出てきて、それが女子高生のチートで、異世界に日本家屋が出てきて、今こうやって風呂に入っていると。


「改めて羅列してみると凄いな! これたった1日の間に起こった出来事なんだぞ!? どんなジェットコースタームービーだよ! 脚本家出て来い!」


 今朝まで平凡なサラリーマンだった自分が、異世界で女子高生と一緒にいるなんて誰が想像出来よう。ユウは湯船に浸かりながら嘆息した。


「そろそろ出るか...」


 とにかく今日は疲れた。すぐにでも寝れそうなくらいだ。アリィの親父さんには悪いが、ベッドを使わせて貰おう。ユウはゆっくりと湯船から出た。

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