第23話 目が覚めたのは3日後で
「う……ん?」
頭の中は妙にすっきりしているが、体が痛い。腰とか肩とかがめちゃくちゃ凝ってる。え、痛い。起き上がれない。
「クレア様っ! い、今お医者様と殿下を……あ、お水、グェンナ!」
「クレア様、目が覚められてよかった……! ゆっくり、起き上がれますか? 無理そうでしたら少しお身体を解しますよ」
「お願い……腰も背中も石みたいで痛いわ……」
メリッサが慌てて部屋を出て行き、グェンナが涙目で私のそばにきて身体をほぐしてくれる。
いつの間にか寝巻きに着替えていて、喉はカラカラ。声も掠れている。
グェンナが言うには、私は3日程寝ていたらしい。汗をたくさんかいたようで、綺麗に拭いては着替えさせてくれていたようだ。解毒には成功してる。息苦しさも痺れもない。
「クレア! ……よかった、本当に……」
アグリア殿下は息を切らせて駆けつけてくれた。背後にはジュリアス殿下もバルク卿もいる。みんなで仕事を放り出したらダメでしょうに。
笑って殿下に手を取られて、もう片手で殿下の頭を撫でた。大丈夫です、私意外としぶといですよ。
「……ご心配おかけしました」
「本当だよ……、君が、そのままずっと目が覚めなかったら……」
「大丈夫ですよ。……思ったよりも時間がかかりましたが」
ただいまもどりました、と言うと、涙目の殿下が笑って、おかえり、と言ってくれる。幸せだ。
ジュリアス殿下とバルク卿も私の様子を見て安心したようだ。
私は寝巻きだしまだ起き上がれそうもないので、今日の面会はここまでです、と言ってメリッサが彼らを追い出した。
翌日から数日かけて私は粥から食べ始め、起き上がる練習をして、部屋の中を歩き回った。
ちゃんとした服を着て身支度を整え、あの作戦会議をした面子……そこにミリーはいなかったけれど……と、再度顔を合わせることができた。
王妃殿下……お義母様には抱きつかれて泣かれてしまった。本当に、私はここに嫁いできて良かったと思う。
「どうなりましたか?」
「ふむ、……バルク卿、説明を」
「はい。……クレア様の予めの指示でなければ、ミリーは死罪、生家は取り潰しでしたが……、指示通りに『間者は家ごとフェイトナム帝国へ』送還しました。また、あちらの皇帝と第三皇女は、我が国の王室への殺人未遂……と、なる所でしたが『クレア様はまだ婚姻をしていないので』王室の一員とはせず、王宮を騒がせた責任で、こちらの王室からの要求として医者や医学書、薬師の派遣と賠償金で、お帰ししました。……甘いのでは?」
「ふふ、二度とこの国にちょっかいを出さない、というのも折り込み済みでしょう? でなければ、私、本当に属国を全部一斉蜂起させますからね」
今回のことで、完全にフェイトナム帝国はバラトニア王国に首根っこを押さえられた形になる。
私を殺すチャンスは一回だけ。
平時に私を殺してしまえば、バラトニア王国の王室が国内を粛清し、婚姻前だからもう一人王女を寄越さなければならなかった。それもまた、婚姻前に殺されたらもう一人だ。さすがにフェイトナム帝国にとっても、属国でもなくなったバラトニア王国に王女が殺されると分かっていて3人も寄越すわけにはいかない。
あの要請の手紙が来て、私は脅迫じみた返事を返した。それで、チャンスは一回だけになった。
ミリーはメリッサとグェンナの情報をどうやらフェイトナム帝国には流さなかったようだ。憎いのはフェイトナム帝国だからだろう。手駒として使われる事を選んだものの、自国の仲間までは売れなかったようだ。
私も、ミリーも、甘い人間だ。そして、お父様もリリアも、私をみくびっていた。
今後二度とバラトニア王国相手に強く出ることは出来ないし、呑めない要請は無くなる。バラトニア王国の陛下は無理は言わないので、余計に。
私はこれでバラトニア王国の医療が少しでも発展するのなら充分な成果だと思うし、だけど、これ以上命を狙われるのはごめんだ。
ミルクティーのカップを置いて、隣のアグリア殿下を見つめる。
「殿下。お願いがあるんですが」
「なんだい?」
「結婚しましょう」
この流れで言うのもどうかとは思ったけれど、私は殿下との婚姻をこれ以上先延ばしにする必要は感じていない。
公務はしっかり回り始めたし、結婚資金として賠償金には持参金もたっぷり嵩まし請求してもらおう。
それに、ここにいるのは全員信頼できる人だけだ。ジュリアス殿下とバルク卿が少し変な顔をしていたが、お義父様もお義母様も、メリッサとグェンナも喜んだ顔をしている。
「そういうのは……私から言いたかったかな?」
「殿下は最初の宴の時に言ってくださいました。懸念は殆ど片付きました、課題はまだ山積みです。課題に取り掛かる前に、私、殿下と一緒になりたいのです」
遠回しな言葉は苦手だ。淑女教育の敗北は、今後の外交のためには少しは挽回したいけれど。
お互い好き合っている男女の間で、言葉を取り繕う必要は感じない。
「クレア、改めて、私と結婚してほしい」
私の顔は、自然に笑っていたようだ。頰が少し熱い。私は殿下の手を取って、はっきりと告げた。
「はい、喜んで。アグリア殿下」
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