第12話 地図作り
バラトニア王国の首都は交易を行う海の近くにあり、港町までは日帰りで往復できる距離にある。
バルク卿が手紙を出したシナプス国には予想通り製紙工房が溢れていた。
元々材料はバラトニア王国からの輸入品で、使う機械ごとの移設と前払いの賃金、住居、生活の保証は、あまり儲けられていない工房には美味しい話だったようで。
10は欲しいと思ったのは、バラトニア王国に建てる工房である。シナプス国には100を超える製紙工房があり、そのうちの3割が手を挙げた。幾つかの製法の近い工房を纏めて大きな工房にし、早急に紙を作る必要がある。
シナプス国にしても紙は必要なものだが、作り手が多すぎて納税が滞っている工房もあったという。そういう工房を積極的に採用し、滞納していた税金をこちらの国で払うことで円滑に事が進んだ。
で、私は港町に来ていたわけだが、当たり前のようにこの国は地図がない。
地図を作れる人を探さなければいけないが、1からでは遅い。出来上がるのは年単位で後になる。
地図作りに必要なのは、抜群の方向感覚と地形把握能力、高低差も加味して、色んな道を知っている人だ。街も集落も人が集まっている所ならどこでも知ってるというと尚いい。
私が港町に訪れたのは職人と機械の入港を見届けて、どの地域に行ってもらうかを決めるためでもあるのだけれど、……港町から国全体に馬車を出している商人がいるはず、と睨んでの事だった。
商人ならば拠点から国中を回る。地図を作るのにうってつけだ。その、輸送担当の中にいい人が居ないかを探すためにきた。
「中々見つかりませんね……」
「というよりも、渋っているのでしょう。輸送担当は大事な仕事です。荷を持って、もしくは金を持って逃げ出さないように、大事に育てた人材です。こちらから出せる物では、交渉材料として難しいものがあります」
護衛兼案内役のバルク卿の言うことはもっともだ。見通しが甘かった。
私は一体何なら商人を動かせるかを考えている。港はきれいに整備されて倉庫が並び、海ではひっきりなしに大きな船の入港と出港が行われている。
当然ながら、国中に行き渡る商品というのは決まっている。魚、およびその加工品。今後は紙……というか、各所の書類の輸送もある。
鉄仮面の下で私が黙っている間、バルク卿は黙って後ろに控えてくれている。
「……! ありました! 材料!」
ばっと振り向いた私に、バルク卿は目を丸くする。
「商工会議所に行きましょう。この材料は、どの商人が競り落とすのか……あの、私、交渉は下手なので……誘導してくださいね?」
強気に言ったものの、私は家族にすら口で勝てた事がない。
バルク卿は二度目を丸くして、小さく吹き出した。
「あー……本当に惜しいですね。あなたが主君の婚約者でなければ……、いえ、今は詳細を聞きましょう」
この人は何がそんなに惜しいのだろう? と、不思議に思いながら、私は絶対にこの利権ならば地図を作るだろうという交渉材料をバルク卿に話した。
バルク卿も、それならば、と頷いてくれたので自信がつく。
商工会議所に、全国に販路を持つ商会の代表を早急に集めるように依頼をした。
会議は3日後に決まった。
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