第6話 妹に押し付けた代償(※カサブランカ視点)

「あぁっ! イライラする! いつになったら私はまた外に出られるのよ!」


 ミモザにあんな豚を押し付けただけで、近衛騎士団長の家系との縁談を『病弱だから』という理由で断った私は、自室から殆ど出られない生活を強いられていた。


 それに、私が病弱なのに父母も社交活動をすると変だという事で、お母様もお茶会の一つも開けずにいる。


 何も知らない豚な次期伯爵なんてどうでもいいじゃない! と、私は枕を何もない壁に投げつけた。


 羽根枕はぼとっと床に落ちたが、こんな事で私の鬱憤は晴れたりしない。


(何か……何か、ストレス解消がしたい)


 そこで思いついたのが、手紙だ。ミモザ宛に。


 精々汗臭い夫との結婚を押し付けられて内心は辟易しているだろうミモザ宛に、手紙を書こう。


 ——愛するミモザへ。


 慣れない場所で、大変な思いはしていない? 貴女は引きこもり気質で引っ込み思案で人見知りなのだから、本当は家に残してあげたかったのだけれど……こんな身体でごめんなさいね。


 次期伯爵様とは仲良くしているかしら? 男性とのお付き合いの仕方が分からないようだったら、いつでも私に相談して。こんな病気になる前は、私の周りには華やかな話がたくさんあったのよ。貴女が読んでいるロマンス小説ではなく、本物のロマンスがね。


 それから……。


 手紙の文面はスルスル浮かんできた。万が一伯爵家の誰かに見られてもおかしくないような文面で、私はミモザがいた時のように妹に恥辱を与える、一見したら優しい内容の手紙をつづる。


 手紙なんて書かないから多少字は汚いけれど、病気で手が震えているという事にでもすればいい。


 私は嫌なことがある度に、ミモザを貶して、コンプレックスを刺激して、部屋に追い込んでいった。


 見事に引きこもりで発言権のない女に育ってくれたおかげで、私は身分をかさにきた白豚みたいな男に嫁がなくても済んだわ。


 可哀想なミモザが寂しくないように、ミモザの結婚式の後には快癒して私はまた社交活動を始める事になっている。


 だからそれまでは、徹底的に手紙でミモザをいじめ倒してやろう。反応が直に見れないのが残念だけれど、それは我慢するしかない。


 だってあんな豚と一生を添い遂げるなんて絶対に嫌だもの。私はもっと爵位が高くて、もっと素敵な方と結婚するの。


 そしたらミモザと旦那様を夜会に招いて『大歓迎』してあげないとね。


 だから今は我慢よ、と私は自分に言い聞かせながら、慣れない手紙を5枚も書いて、ミモザの元に届けさせた。


 ミモザ、貴女は結婚しても何をしても私の妹には変わりないの。一生惨めな引きこもりでいて欲しいわ。


 貴女思いのお姉様からのささやかなお願いよ。きっと、恥をかかせて出て来れなくしてあげるからね。

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