第5話 ゲームセンターにて

 僕は文芸部の他に将棋部もやっていて、その将棋部の帰りのことだ。

 寄り道として、文神中央駅近くのゲームセンターにやってきた。

 そこは市内では最大規模のゲームセンターで、多種多様な機種がずらりと並んでいる。

 奥の方に格闘ゲームがある。デザインが昭和っぽくてレトロチックだ。今日の僕はそれが目当てだった。

 途中、クレーンゲームや音ゲーがあって、その先のメダルゲームのコーナーで誠司に会った。


「あれ、誠司?」

「おう、遠野か。お前もゲームしにきたのか?」

「まあね。で、誠司はメダルゲームを?」

「ああ。生憎、全部擦っちまったよ、チクショ」


誠司は楽しそうに悪態を吐いた。

 僕はその理由が気になって


「誠司、もしかして負けたのに楽しいの?」

「ん? ああ、そうかもな」

「なんで?」

「なんでって言われてもなぁ……ゲームは楽しむためにあるだろう?」



 ふと、僕は先日の冬原さんへの失恋を思い出した。

 彼女は誠司が好きだった。僕じゃなく彼が。確かに誠司は顔が良いし、頭もそこそこ良い。

 でも、多分そこじゃない。

 誠司は捻くれた性格をしているけれど、彼は今と向き合ってる。誠実に生きている。だから彼は悪態を吐きつつも、ゲーム本来の目的を忘れちゃいないんだ。

 多分そこなんだろうな、と僕は思う。

 対する僕は頑張ってイケメン(傲慢)になったけど、それは結局仮面を被った姿でしかない。


 やれやれ、僕には心と心でぶつかり合う誠実さがなかったのかも知れないね……


「ねえ、誠司。久しぶりにあの格ゲーで勝負しない? 負けた方がラーメン奢りで」

「ほほう、望むところだ」


 僕は自然体で素敵になろうと心に誓った。

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