第3話 フリーマーケット

 私は昔からシンデレラの話が嫌いだった。


 12時で解ける魔法を掛けてくれる魔法使いなんてどこにも居ないし、カボチャは馬車にならない。カボチャは食うもんだろ。ガラスの靴なんて怖くて履けない。滑って転んだり割れて足を怪我したらどうするよ。


 そして自分を探してお嫁さんにしてくれる王子様もどこにも居ない。自分がシンデレラと同じ境遇になったから良く分かる。そう、どこにも居ないのだ。


 だから自分の居場所は自分で作るしかない。魔法使いが現れないなら自分が魔法使いになってやる。私はシンデレラのように虐めを受けても抵抗せず、黙って耐えるなんて真似は死んでもゴメンだ。


 やられたらやり返す。この信念が私を支えている。そして今日も。


「ねぇ、おじさん。もうちょっと色付けてよ」


「いやいや、悪いがこれ以上は無理だって」


「何よ!? お得意さんにサービスするのは当たり前でしょ!? 色付けてくれないんだったら別の店に行くわよ!?」


「敵わねぇな、嬢ちゃんには...分かった分かった、これでどうだ!?」


「わ~い♪ ありがとう、おじさん♪」


 今私は質屋に来ている。愚かなあいつらの宝石や貴金属類を売るためだ。どうせあいつらに物の真贋なんて分かりっこない。キラキラ光ってりゃご機嫌なんだから。全てイミテーションに変えてやった。


 私の私物だった宝石や貴金属類も、あいつらに獲られる前に母の形見以外は全て売った。なんでそんなに金が必要かだって? 自分の身を守るためだ。


 あいつらの言いなりに成り果てた愚かな父は、いずれ私をどこかの金持ち貴族に売るだろう。あいつらにとって私は邪魔な存在だから。中年太りして脂ぎったハゲデブ親父か、あるいはロリコン変態趣味のキモオタ親父か。どっちも冗談じゃない。


 そんな所に売られるくらいなら逃げ出してやる。そのための資金集めをしている最中という訳だ。ちなみに私の銀髪と碧い目は目立つので変装している。長い髪はお団子に纏め、その上から帽子を被って隠している。それと瓶底メガネを掛けて目を隠している。これで伯爵家の令嬢には見えないはずだ。



◇◇◇



 深夜、あいつらが寝静まった後、私達は内職を始める。賛同してくれているのは、私付きの侍女だったサラと、義母の侍女メイ、義姉の侍女カナ、この3人だ。みんな私の境遇に同情し参加してくれている。私がここを出て行く時には一緒に付いて行くとまで言ってくれた。有り難くて涙が出る。


「ねぇ、サラ。そっちは後どれくらい?」


「残り3着です」


「メイとカナは?」


「「 残り1着です 」」


「ありがとう。明日には何とか間に合いそうね」


 明日は週に1回開かれるフリーマーケットの日だ。私達はあいつらが着なくなった、あるいは太って着れなくなったドレスを少しずつ失敬してパッチワークをしている。あいつらはドレスが減っても気付きもしないだろう。


 あいつらが身に付けてる宝石や貴金属類、ドレスも全て伯爵家の金で買った物だ。罪悪感を感じる必要はこれっぽっちも無い。それは3人にも良く言い含めてある。


 あいつらの趣味の悪いドレスも、継ぎ接ぎすれば奇抜なデザインに見えないこともない。現にフリーマーケットに出すようになってから、ちょっとずつ話題になってきて、売れ残りはほとんど無い。常連さんも付いてくれた。


「はい、いらっしゃい、いらっしゃい~! 安いよ、安いよ~! そこのお姉さん、おひとつ如何?」


「サラ、先に食事休憩に入って」


 今日は私とサラが店番だ。私は質屋の時と同じ変装スタイルで接客している。身バレする訳にはいかない。


「分かりました。そういえば今日はまだ「王子様」来ませんね」


「王子様は止めてよ」


 サラが言う「王子様」とは、最近常連さんになってくれた人のことだ。明らかに私と同じように変装して現れる人で、隠そうとしても隠し切れない貴族オーラがだだ漏れしている。


「やあ、今日も買いに来たよ」


 そう、この人だ。帽子を目深に被り黒縁のメガネを掛けている。顔は良く見えないがイケメンであるのは間違いない無さそうだ。


「ここからここまで全部頂戴」


 そしていつも大人買いしてくれる。


「いつもありがとうございます。あの、良かったらこれを」


「これは? 君が刺繍したハンカチ?」


「はい、こんなもので良かったらサービスさせて下さい」


「ありがとう! 凄く嬉しいよ!」


 うっ! その眩しい笑顔は止めて欲しい。勘違いしそうになる。私には王子様が迎えになんて来ないんだから...

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