おんぶ

興味本位で、某所にある『防空壕跡地』へ行った時の話です。


跡地とは言え、そのまま残っている印象でした。なぜはっきり言わないか?入口にも足を踏み入れていないからです、その理由をお話しいたします。


その日は友人4人で遠乗りした。透き通るような海に足を入れ、そうだ!あそこに行ってみよう!と、行ったことのない場所で、眼に見えるだけのものを目指して気ままなドライブをしたのでした。


夜になったところで友人から『防空壕行こう』と提案がありました。


到着したころには深夜だったと記憶しています。足場の悪い岩山を歩くと、草が覆いかぶさってはいるが、確かにぽっかりと漆黒の穴が開いているのが分かりました。今宵は月灯りのお陰で周囲が暗闇ではなかったのです。


最初から乗り気ではなかった私は渋々歩を進めようとしたのですが、10人くらいの集団が『ごめんごめん!おっさきー!』と言うノリで追い抜いて行った。こんな場所でエチケットもルールもないしな…と思い、別段腹も立たなかったのですが…。


穴の前で友人たちがジャンケンをし、順番を決めている中、その横に私は真っ黒な人が見えていました。真っ黒なんです、まっくろ、白眼もない、歯もない、真っ黒。

ただ、次々に入っていく若者たちを見ては頷いているのはわかった。


『何を頷いているのだろう』


その答えは直後にわかりました。


出てきた若者1人1人の背中に真っ黒い人がおぶさっているのです。先に追い抜いて行った集団10人全員が真っ黒い人をおんぶして反対側の方へキャッキャ言いながら帰って行きました。


入口の黒い人は『お前はそいつ、うん、お前はそれ、うん』と指示でも出していたのかもしれません。その黒い門番は表情はわからないが、確かに私たちを見ていました、さぁ、お前らの番だぞと言わんばかりに。


私は友人たちに、やめた方が良いと説得して無事に帰ることが出来ました。

もし黒い人が見えなかったら、私たちも何かをおんぶして帰って来たんだろうかと考えるとゾッとします。

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