第7話 プロローグ その7 炎の道

 正体は定かではなかったが閃光を放つ二つの高速飛翔体は俺達を追い抜いた時点で急速に高度を下げ地面を走った!


 ズガーン!!!ズズズズズーーーーー!!!


 そんな感じの爆音を上げて着地着弾し地面を這うような形で二筋の線を描いてなおも相当な距離を進んでいく。


 ドオオオオーーーーン!


 さらに爆音!


 光球が地面に描いた二筋の線が爆発し二面の巨大な壁の様な炎が巻き上がった。


「地面が爆発した!?」


「ち、地上のモーゼだお!?いや炎の万里の長城かお!」


「道が!」


 3~4m程の間隔で平行に延々と立ち上がった巨大な壁状の炎は、今度こそグソクが入ってこられない炎のガードレールを伴った1kmはあろうかという道を即座に形成したのだった。この道を進めば今度こそ!あるいは!


「キイー!キイー!キイー!」


 衝撃波によって吹き飛ばされていたグソク達は再び俺達を捕食しようと密集しようとしていたが、突然発生した巨大な炎を前に完全に統率を失い様々な鳴き声を上げて右往左往するだけとなった。


「熱い…ゴホゴホッ」


 地面の水分を含んだ若草にも引火した炎は熱と共に白い煙を上げていた。この高温と煙の中を進めるのだろうか?途中、一酸化炭素中毒で倒れやしないだろうか?そんな思いもないわけではなかったが、生きたままグソクにかじられる事を思えば迷いも恐怖もなかった。服で口を押さえながら必死に炎の道を行く。


「ふぁーふぁーん!(←泣いている音)目が痛いおー!」


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 頭上でちゅん助が辛そうに嘆いた。


「ゴホッ、ゴホ!ちゅん助!腹に入ってろ!」


 俺はちゅん助を無理やり服の中に押し込むと炎と煙に巻かれながら再び歩き出した。


「クソ、この状況でも追って来るのか!?」


 ふと後ろに目をやるとこの状況でも戦意と食欲を失ってないらしき個体が、数こそ減ったものの確実に道の中央に列をなして俺達を追って来る姿が見えた。途中で青の群れを倒した、いや倒してもらったのは正解だった。この状況での追撃が青だったならあっと言う間に追いつかれて逃げ場の無い炎の中で交戦!完全にアウトだったのだ。


(出口が見えない…熱い…苦しい…たどりつけ…る……か?)


 度重なる戦闘と危機の連続に朦朧となりながら、いつ意識を失ってもおかしくない極限状態の中、それでも俺は諦めることなく道を進んだ。


(もはやここまでとなったら…意識が途切れぬうちに、ちゅん助だけでも外に放り出すか?)


 しかし炎の壁面の外には、混乱しているとはいえグソクの大群が、俺達が堪らず飛び出してくるのを今か今かと待ちあぐねているのだ。放り出したところでちゅん助が助かるとも思えない。つまりは自力でどうにかしてこの道を抜けるしかないのだ。


 目の前の道が熱と煙と怪我と疲労で永遠の長さに感じられた。しかしこの道さえ抜ければ恐らく生への希望が待っているのだ!そう言い聞かせて進む他はない!が、それにしても熱く苦しかった。


 後ろのグソクの追撃隊はジワリと距離を詰めて来ていた。動きの遅い灰色ではあったが脚に傷を負った俺のスピードでは距離が縮まるのを遅らせるのが精一杯であった。両側を炎に囲まれたこの道で追いつかれたならばもはや戦闘出来る体力は無い…逃げ切る!逃げ切るしかないのだ!


「しつこい奴等だ!ゴホッ!オホッ!それにしても…遠い…」


(頑張るんだお!これだけの火の手が上がったら絶対隊の中の誰かが異変に気付いて確認しに来てくれるはずなんだお!)


「だと、いいけど…」


 服の中でちゅん助が希望を口にした。希望的観測であったが確かにちゅん助の言う通りであった。


 これほどの炎と爆音が発生したなら誰かしらが傍まで駆け付けているかもしれない。


 あくまで希望的観測だったが、それすらないよりましだ。最も大きな効果は俺の心中に希望が生まれた事かも知れなかった。


 足を引きずり、どれだけ歩いただろうか?煙で喉と目が激しく痛み、熱で喉が渇き、疲労が歩みを重くしていた。


 それでも!炎と煙に巻かれて全く見えなかった出口が一歩一歩確実に近づいてくるのが目視できるようになっていた!


 しかし数百m離れていたグソク達はもう十数mに迫っていた。もう少しで奴等の交戦レンジに捕われてしまう。


(助けは!助けは来ているのか!)


 出口まであと百m!


 数十m!


 数m!


 この出口を抜ければ、抜けさえすれば!味方がいるかもしれないのだ!いいや!居る!居るはず!





 そう思いたかった…







「ああッ…!」

 ドサッ!


 悲鳴にも絶望にも完全に諦めの臭いも含んだ言葉にならない声を発して俺の両膝が折れ地面に着いた。


「どうしたんだお!」


 異変に気付いたちゅん助が服から飛び出してきた。


「こ、こんな!」


 ちゅん助が驚嘆の声を上げた。


 炎の壁から抜けた一帯は平原が広がっているはずだった。隊の誰かが「大丈夫か!何があった!?」そんな感じで駆け付けている!そんな期待を胸に必死で抜けて来たのに今、目の前に広がっているのは今まで以上に密集し待ち構えていた灰グソクの大群であった!炎の道の出口を埋め尽くさんばかりにびっしりと集まり蠢いていたのだった。


 恐らくは炎壁外のグソク達は先回りして待ち構えていたのだ。炎の道内部に侵入して追ってきた群れが必要以上に追い足を速めることなく距離を縮めなかったのは…こういう事か…


 無数の個体の全てが俺達の方を向いて、遅かったな!待ちくたびれたぞ!と言わんばかりにキキキと薄気味悪い鳴き声を漏らしていた。


「ああ…」


 流石のちゅん助も万策尽きた…そんな感じの声を漏らした。


(さすがに…ここまでかな…)


 俺はもう動けなかった。最後の希望を信じて這いずるようにしてここまでたどり着いた結果がこれなのだ。


 諦めるな!頑張れ!どんな言葉ももはや耳に入らない…


プロローグ

その7 炎の道 

終わり

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