第22話 面接日 その2

 筆記試験の時に1回来ているから、有る程度の勝手は分かる。

 来客用通用口から入って、エレベーターに乗り込んで、五崎重工の現場事務所に向かう。

 現場事務所付近にたどり着くと、年配の女性の方が近くに居て、声を掛けて来る。


「面接の方ですよね?」


「はい!」

「早見と申します!」


「あちらに見える控え室にお向かい下さい」


 女性の方が指す方向を見ると『面接控え室』と書かれた看板が立てられている。

 俺は女性の方にお礼を言い、控え室に入る。


(美空はちゃんと付いて来て居るのかな?)


 美空に声を掛けても美空は返事が出来ないし、それに、この場でそんな事を言っていたら頭がおかしい人物と認定されて、不採用に成る確率が跳ね上がる!?

 美空の事と面接の事を考えて、不安な気持ちで控え室に入る。


 面接は時間制と成っているため、控え室には監視役の方が1人居るだけで、他の採用希望者の方は居ない。

 俺は監視役の人に挨拶をして、面接の時間をじっと待つ。

 採用人数は若干名だが、筆記試験の時には10人位の人達が居た。何人が筆記試験を通過したかは分からないが、狭き門で有る事は事実で有る。


 荷物置き場に成っている場所に、恐らく採用希望者の荷物が置いて有るので、もう面接自体は始まっているのだろう……


 俺は面接開始時間、約20分前に控え室に入っているから待ち時間は凄く有る。

 監視役の人も居るので迂闊うかつにスマートフォンも触れない。

 監視役の人も事務的な言葉は言うが、それ以外は何も言わないので、10数分の待ち時間が1時間位に感じた……


 ……


 遂に俺の名前が呼ばれて面接の開始で有る。

 面接を担当するのは、人事部長・現場所長・現場工程を管理する管理部長の3人で有る。


 軽い自己紹介をした後、定番の志望動機を聞かれて面接が進んでいく……

 この会社の面接は3人の面接官が居るが、面接自体は個別面接で有る。1人が質問をして、後の2人は黙って聞いて居る。そんな感じだ。

 人事部長から質問される事に対して、俺は答えて行く。


(この辺は美空と面接練習をしたから、すらすら言えるぞ!)

(美空! 俺の勇ましい姿を見ているか!!)


 心の中でそう思いながら、面接を進めて行くと人事部長から管理部長に変わって、有る質問をされる。


「早見さんにとって、許せない事は何ですか?」

「日常生活の中とか、何でも構いません」


(えっ!? 何だこの質問!!)

(変な質問が来たぞ!!)


 俺はとっさに思った事を軽く纏めあげて、とにかく喋る。

 ここで間を空けると、更に問い詰められるからだ!!


「私にとって許せない事は、人の輪を乱す行為です!」

「例えば…深夜に騒音を出したり、衝撃音を出して人を威嚇したり、あおり運転等をする行為です!」


 俺にとってはベストな答えを言ったつもりだが、管理部長は顔をしかめていた…


(あれ?)

(違うのか……)


「……そうですか…」

「では、早見さん。そのような状態に成った時に、早見さんはどうしていますか?」


(うぁ……質疑が来た!)


「はい……。その時は、お気に入りの音楽を聴いて気分を和らげます!」


 俺はそう応答したが、管理部長は『えっ、そんなので良いの? 違うだろ!?』の顔をしていた。

 

「はい……。ありがとうございます…」

「では、次にお聞きしたいのが、―――」


(さっきの質問、絶対違うよな……。時間が巻き戻らないと言う事は美空の奴、失敗したな!?)


 ここで美空を恨んでも仕方が無い……

 俺は他の質問で挽回する事を決めて面接は進んでいく……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る