FLY Me to the MOON

如月 睦月

第1話 プロローグ

ここはゼウスシティ


大きな街で多種多様な人種が住んでいる。

だが活気があるのは中心地だけで、

少し離れるとそこには大自然が広がり、雄々しさを見せる。

深い森も存在し、方々には村も存在していた。


18歳の女子で彼氏なしの高校3年生。

幼少の頃に病気して、薬の後遺症でずっと白髪。

そのせいだと思いたいのですがモテません。


彼女は如月(キサラギ)


しかしモテない理由だと分かっているけど言わない事があった。

それは大のオカルトマニアだと言う事。

心霊・UMAや巨大生物はもちろん、猟奇事件や失踪事件、

超常現象からUFOに至るまで、自分が興味を持てば、

それは全部大きく言えばオカルトと言うカテゴリーだった。

夏の心霊番組は当然ながら、季節外れの心霊番組も逃さずチェック。

UMA捜索番組なんか『見つかるなー!逃げろー!モスマン!』等と

テレビに向かって叫ぶほど好きだった。

彼女はオカルトの先にロマンを見ているようだった。


これから話すのは、そんな変な・・・

コホン・・・


そんな彼女の物語です。


タンタンタラン♪タンタンタタン・・・♪


『う・・・うぬ・・・』


頭まですっぽり布団に潜り込んだまま、

手探りで目覚まし時計を器用に探し出して、

マイク・オールディーフィールドの

チュブリアベルズを止める、

目覚めにホラー映画のテーマソングは最高らしい。


そして1・・・2・・・3・・・ハイ!


ガチャ!!!睦月(ムツキ)!!遅刻するよ!


時間通りに母親が起こしに来た。

如月はこれも目覚まし代わりに使っているのでした、

ちなみに睦月は如月の名前。


本人は自分の名前に

月が2つも入っているのが気に入らなかった。

だが、両親はフランキー・シナトラが歌った曲で、

FLY ME TO THE MOONが夫婦の思い出の曲らしく、

名前にも月を入れたかったのだといつも笑顔で語る。


そして何より如月は2月、睦月は1月を意味し、

それは両親の誕生月と言う事で、

とりわけ思い入れが強い名前となっている。

それを知っている如月は『気に入らない』と

言葉にしたことは1度もなかった。


胃腸が丈夫な方ではない如月の朝食はパン。

チーン!とホテルの呼び鈴を思わせる小気味良い音が響く。

何年も買い替えていない、我が家とは長い付き合いの

オーブントースターが音の犯人。

タイマーをギーッと回すと上下のパイプがオレンジ色に光り、

こんがりといい感じに焼いてくれる作業を

ずっと続けてくれているのだ。

如月は弱めにサッと焼いた角食にバターを軽く塗るのが好きだった。

時間には余裕を持つ性格の如月だが、

この日はテレビのニュースに見入ってしまったから少し時間が無い。


『女子高生が痴漢した男に噛み・・・プッ!』

あまり目が良くない如月は目を細めながらテロップを読み、

読み終わる前に笑った。

『噛み付いたって!?お父さん気を付けてよ!あはははは』


『噛まれたくないからやめておくよ』

口元だけで笑いながら如月の父親は靴を履いた。

『はいはい、いってらっしゃーい』

2人の冗談を軽く流しながら如月の母親が父親を送り出した。

その背中に軽くパン!と平手打ちをし、

振り向かないまま手を振り、

白髪をキラキラと朝日に輝かせながら走り抜けたのは睦月だった。


やれやれ。。。


そう思いながら母親は睦月の背中に手を振った。


自転車置き場に到着し、いつもの自転車に乗る。

学校までの道のりは約10kmあるのだが、

如月は少しでも丈夫になりたくて自転車登校しているのだ。

『いくよシェルビー!』とあるカーアクション映画を見て以来、

海外の車であるシェルビーにベタ惚れしてしまい、

自分の愛車にシェルビーと名付けていた。

いつものように右足から大きく踏み込み、軽快に駐輪場を出発。


平坦で変わりないいつもの住宅街を走る。

玄関掃除しているおばぁさんにいつもの挨拶をする、

『おはよう!華さん!』

『あいおはよう!いってらっしゃい睦月ちゃん!』

と元気な声が返ってくる。

いつものように振り向かずに手を振る睦月。


商店街に差し掛かると、声をかける人がグッと増す。

魚屋さん、お肉屋さん、靴屋さん、花屋さん、ラーメン屋さん、

様々な人たちが如月の登校時間には顔を出し、

一斉に『おはよう!睦月ちゃん!』と声をかける。

これもいつもの日課なのだ。

もともとは誰も挨拶などしなかったのだが、

如月が毎朝無視されても通りすがりの

『おはようございます!』を欠かさなかった結果、

1人また1人と挨拶を返すようになり、

今では如月が来るのを商店街の人たちが

楽しみにするような状態になっていた。

白髪のロングヘアーは目立つので見つけやすく時間にほぼ正確、

時計代わりに使われているのを彼女は知らない。


他愛もないいつもの日常だが、互いが元気か確認できる手段でもあった。

挨拶自体が今時珍しいとも言えるのに、この街は挨拶で溢れていた。

商店街を抜けると一気に田舎道へと出る。

急に寂れ、家が転々としか無い。

そして永遠に続くのではないかと錯覚するほどの上り坂。

約2kmの上り坂ではあるが、電動アシストでなければ、

座ったままでの走覇は男子でも苦しいであろう斜度だった。

如月は太ももが悲鳴を上げるギリギリまで座り漕ぎをするスタイル。

もうだめ!からの立ち漕ぎで一気に上り切る!これが好きだった。

上りきると坂の頂上で一度止まり、

振り向いて街を見下ろしながら3回深呼吸する・・・

これもいつものこと。


『よし!』と静かに気合を入れて、ゆっくりと走り出した。

左右の木々から木漏れ日が降り注ぐロケーションの良い道を

数キロ軽快に漕ぐことになるのだが、木漏れ日がないと、

木が覆いかぶさったトンネルのような道なので、怖いと言えば怖い。

なので、木漏れ日が無い日は如月はここも【全力】で走り抜ける。


今日は天気が良いので景色を楽しみながらゆっくり進む。

大きく左カーブに入ると、出口辺りから高校が見えてくる。

ここからは緩い下り坂なので、辛い上り坂を越えてきた苦労が

一気に加速と言う形で報われるのだ。


ちなみにだが、実はこの道はほとんどの学生は通らない。

なぜならもっと楽に行ける道があるから。

答えは簡単なこと、朝から誰もしんどい思いをして登校したくないのだ。

変質者が出たと言う噂が出てからは、それに【気持ち悪い】がプラスされ、

より一層嫌われている。だから如月が知っている限りでは、

このキツイ道を来るのは如月ただ一人なのだ。

もちろん如月が知らないだけで誰かが通っているかもしれない。

でもそれを如月が知らないから如月的には自分一人の道だった。

それだけで優越感を感じる如月なのだ。


いつもの朝を迎え、

いつもの挨拶をし、

いつもの道を通り、

いつもの学校へ・・・


『おはよう!』白髪の如月を気味悪がる生徒はおらず、

むしろ白髪で見つけやすいと言った印象で、次々に友人が挨拶してくる。

それに対し如月は首を四方八方に回し、全て笑顔で手を振り

『おはよう』を返すのだった。

そんな中『どーん!』と言いながら体当たりしてくる女子がいた。

金髪ロングのポニーテールで、順天堂の大人気ゲーム『メトロリアス』の

主人公『サムス・アラーニア』のようないでたちで、

如月より少し背の高い中国人とアメリカ人のハーフ【パイ・ロン】

ニックネームはパイロン。

普通ニックネームは略したり、脈絡がなかったり、

失敗や失言を元に付けられることが多いのだが、

彼女の場合はなぜか『パイロン』だった。

ついでに言うと金髪は地毛なので校則違反ではない。

如月とは幼馴染で幼稚園から同じ時を過ごしている友人で、

クラスは違うがこうして仲良く過ごす時間をお互いに大事にしている。


『おはようパイロン』


『おはようで申し訳ございません』


ここでいつもの悪気のない野次が飛ぶ・・


『よ!オリンピックコンビ!』


如月の髪は【白髪(銀)】、パイは【金髪】だからなのだろう。

『銅は誰だよ!』と如月が返して終わる流れもいつものこと。

如月とパイは笑いながら校舎に入った。


いつもの授業が始まり、

放課後を迎える・・・


いつも通りの日常だった。

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