第17話 神麓山の深部

「なかなかな場所ですね。」

八白が静かな声で言った。


自分たちの歩いている場所を見ながらその光景に多少なりとも驚いていた。そこは深い深い森の中だった。

山だから木に覆われているのは当然だが、光も届かないほど暗い。太陽の陽がほとんど届いていない。

あまりに暗く闇の中にいるようだった。

3人の足元には法術による火の玉がポンポン跳ねて足元を照らしている。足元だけを静かに照らしている。


道とは言えないような道を歩いている。さすがに道幅も狭くなり、並んでは歩けないので、八白、朱伎、棗の順番で進んで行く。


「そうだな。色んなモノがいるな。」

朱伎はどこか楽しそうに言った。


周りには色んな気配があった。何の気配か分からないが、強い気配も感じていた。

久し振りに何か楽しそうなことがありそうな予感を感じていた。


「そんなにりたいなら気配を抑えればいいでしょう。そうすればあちらから来てくれますよ。」

棗は呆れたように言った。


自分の気配を抑えていれば周りの気配は狙ってくるだろう。ここにいる魔獣は自分より強い人間を狙うことはない。弱肉強食の世界だ。

魔獣は自分の力を本能で知っているのだ。己より強いモノに挑むことはない。

彼女が自分の気配を抑えれば、楽しむことができるだろうと思う。


「今回の件が落ち着いたら力試しにここに入るのもいいかもしれないな。」

朱伎は明るく笑った。


この場所がなぜか落ち着くと感じるのだった。

そして、この場所に入り、魔獣たちと渡り合うことで強くなることが出来るだろうと思った。

自分の力を試すために里の人間をここへ送ろうと密かに考えていた。

もちろん率先して自分が入る。まずは自分で試して他の人間を送ろうと決めた。


「それは俺らも含まれているんですか?」

八白が苦笑しながら尋ねた。


恐らく自分たちも入っているんだろうな。と思いながら一応、頭首に確認してみた。

彼女が決めているだろうことは分かった。彼女は自分が楽しいことに首を突っ込むことが大好きだった。

少し落ち着いた頃に自分たちを引き連れて、この中に入るだろうことが容易に想像できた。

そして自分たちは断ることなく引きずられて行くだろうことも想像できる。


「当たり前だろう?きっと楽しいぞ?」

朱伎は当然のように笑った。


「そうですかねぇ。」

棗が面倒そうに言った。


自分がこの中に入り魔獣を相手にするかと思うと面倒だった。

だが頭首は言い出したら絶対に止めないことを知っているので、やるしかないことも分かっていた。


「そんなに面倒がるなよ。私も一緒に行くから。」

朱伎は嬉しそうに言った。


彼らがなぜ嫌がるのか分からないという表情だった。もちろん自分も一緒に行く。だから嫌がるなと言っているようだった。


「いや。その方が…。」

「そうだよね。」

棗と八白はほとんど同時に呟いた。


できれば、それは止めてほしい。2人はそれほど面倒なことはないと思った。

彼女をよく知っている人間なら誰もが同じことを思うだろう。


「悲しいこと言うなよ。」

朱伎は笑った。


「嫌ですよ。」

棗が本当に嫌そうに言った。


棗の迷いのない言葉に八白は静かに微笑んだ。

まるで昔ながらの友人のように3人は雑談をしながら歩いていた。

その様子は主と部下の関係にはとても見えない。それは友人のように見えた。


朱伎は自分たちにも里の人間にも家族のように。また友人のように接する。

どんな立場の人間であっても分け隔てなく平等に接する。

それが彼女という人間だった。













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