第7話  時は来た

「最初の件はいつなの?」

四聖人の前任者・らんが静かに問いかける。

金色の髪に緑色の瞳の女性だ。キレイな女性だが気が強そうな雰囲気を持つ。


「十日前です。順国の要人の護衛の任務でした。要人含め、こちらの人員も深手は負っていますが回復に向かっています。」

多岐が静かな声で言った。


「順国には何と報告を?」

伊那が問いかける。


「須磨殿の提案により、彼らが狙われたため調査すると。」

崋山がまっすぐに伊那を見つめ大丈夫だと伝える。


彼が何を心配するのか手に取るように分かった。自分も同じ心配をしたが、そんな事態にはならなかった。

要は問題が大きくならないという事だ。須磨とテンは襲撃を問題ないと判断した。そして森羅の里のために真実を報告しないと決めた。


彼らが襲撃を国に報告すれば、襲撃は誰に非があるのかという話になる。国を挙げての問題に発展する恐れがある。それは森羅の里にとって大きな痛手となる。名を落とすことになり得る。


国とは自国の利益のために何でもする。それは当然で国としての義務でもある。国の民たちのために自国を護り、自国の利益を護る必要がある。だからこそ国交とは複雑で微妙な問題が多く絡んでくる。


森羅の里は、他の国とは違い特別な里だ。国ではなく里として機能している。国と変わらないが国とは名乗らない。


他の国とは完全に独立し、中立的な立場を保っている。国同士の争いや問題に干渉しない。どの国ともある程度の距離を保っている。

協力を求められれば立場を崩すことなく対応する。


森羅の里は、頭首である朱伎を筆頭に大きな力を有しているため1つの国に属することをしない。

1つの国に属することは、その国に大きな力と権力を与えることになる。

それは世界の均衡を崩すことになりかねない。大きな争いの火種となりかねない。


だからこそ森羅の里はどこにも属さない。自分たちを護るためににも独立している。どこかに属してしまえば居場所を失うことになりかねない。


だが、どの国も森羅の里の力を得たいと思っていることは事実だ。昔から、何とかその力を得ようとする国が絶えないが、森羅の里の頭首は決して首を縦には振らない。


どれ程、良い条件を提示されようと魅力的な申し出があろうと決して受け入れない。どんな状況であっても自分たちの力を利用させるわけにはいかない。それが頭首の役目でもある。


「それで?誰の仕業か見当はついているの?」

長老の唯一の女性、文が尋ねた。


銀色の髪に青色の瞳の穏やかな口調の老女だ。若い頃には美しかっただろうことが想像できる。

犯人が分かっていて、この会議が開かれているのか、分からないから会議が必要なのか考える。


「結論から言おう。時は来た。永い眠りから影は解き放たれた。」

朱伎はしっかりとした口調で言った。


まっすぐに前を向く瞳は未来を見ている。それが自分の出した答えだ。どれだけ考えても他の答えは出てこなかった。

この場で皆の前で口にしたことで頭の中がクリアになり、次にすべきことがはっきり見えた。スッキリした顔をしていた。


「まさか。」

「そんなことは有り得ん。」

「まだわからないのでは?」

3人の驚きの声が重なった。


蘭と伊那が否定した。同じく長老の1人、白髪に黒色の瞳の男性・游が首を傾げた。

3人の声のトーンが朱伎の言葉を否定していることは確かだ。他の者も驚きの色が隠せない。


「一度や二度ならば私も見逃すだろう。だが同じことが三度となれば話は別だ。見逃すわけにはいかない。」

朱伎はしっかりとした口調で言った。


厳しい表情だ。一度や二度なら偶然もあり得るから見逃すだろう。だが同じことが三度起これば偶然はありえない。何か起きていると考え、その状況を見逃すわけにはいかない。


「結論を出すのは早くねぇか。」

四聖人の前任者、茶色の髪に瞳の中年の男性、久能くのうが言った。


どこか軽い口調で真剣なのかどうか表情が読めない人物だ。結論を出すのは早いのではないかと考えているようだった。


「そうね。私も事態を知りたいわ。」

文が静かな声で言った。


結論を出すための情報が足りないと言う。事は慎重に運ぶべきだと考えているのが分かる。


「時間はないのかもしれないかもね。」

八白が穏やかな口調ながら手厳しいことを言った。


悠長に眺めている段階ではないと確信している。そして朱伎の決断を知っていて、その決断についていくと決めている。


「まぁ。どちらにしても私の結論は出ている。皆がその事実を認めたくないことはよく分かる。私も間違いならと願う。それでも里を護るために最善を尽くしたい。それが私の頭首としての責任だ。」

朱伎は静かに微笑んだ。


静かな瞳で皆をゆっくりと見回す。その事実を認めたくない気持ちは分かる。できるなら間違いであってほしいと願っている。


自分の間違いならそれでいい。頭首としては問題としては問題だろうが里が護れるならそれでいい。

その頭首の言葉に皆、黙り静かな時間が流れる。頭首が正しいと皆が認めざるを得なかった。

護るべきは自分たちの面子ではなく里だ。そのために自分の想いとは別のことをすべき時もある。

里を護るために最善を尽くす。それに尽きる。



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