第3話 少年と少女(2)

3人がいるのは里の中心に位置する《扇央せんおうの塔》と呼ばれる5階建ての建物だ。朱伎の仕事場であり家でもある。

朱伎は一日のほとんどの時間をこの場所で過ごす。

この《扇央の塔》で里のすべての政が行われる。すべてが決定される里の中枢となる最も重要な場所でもある。


1階は里での暮らしのために必要な事務手続きが行われる役所だ。この階は誰でも自由に出入りができるため、いつも多くの人でごった返している。


塔の正面で入り口の前には広場があり、様々な催しが開かれる里の人間の憩いの場であり、誰にでも開かれた場所だ。


朱伎が里の人間に向けて生命を出す場合、ここを利用することも多い。

朱伎は時間が許す限り広場に顔を出す。出来る限り里の人間と交流するようにしていた。それが里の人間の心の安心につながると思っている。


2階は主に里の警備を行う。里の安全を護るために働く警護官の仕事場だ。

警護官の仕事は里の安全の確保だ。里の周辺の見回り、不振人物の取り締まり、喧嘩の仲裁など警護官の仕事は多岐にわたる。


2階までは誰でも出入りができるが、それ以上は制限される。入るためにいくつかの手続きが必要となる。出入口には常に警護官が立ち出入りを厳しく制限している。


3階と4階は里のまつりごとを取り仕切る場所だ。里の行く末を決定する場所と言える。

里の法を守る番人の法人、里の法を作る法規人など法に携わる役人たちの仕事場だ。 里の外からも多くの情報が寄せられ、その情報を処理する場所でもあるため機密性が高く誰でも簡単に出入りできるわけではない。


3階までは里の人間なら、いくつかの段階を踏めば入ることができるが、4階より上の階は機密のレベルが違うため、簡単には入れない。4階の入り口には何重もの結界が張ってあるうえに特任警護官が立つ。

この階の特任警護官は特別な訓練を受け、難しい試験を突破した者しか付くことができない特別な職だ。警護官なら誰もが憧れる職でもある。


4階には許可のない者は入れない。4階の入り口には特任警護官の他に頭首の一族に仕える守護獣がいる。一般の人間には、姿を見せることはないが、特任警護官には姿を見せている。


4階に入る許可を出すのは朱伎だ。許可のない人間も入ることはできるが、朱伎の許可を得ない限り出ることはできない。そういう結界が張られている。

間違って入っても朱伎が受け入れて許可するか、実力で結界を破るかどちらかしかないが、後者はありえないとされている。


常に4階に入る許可を持つのは、四聖人と長老、各階の長、一族の長など、ほんの一握りの人間だけだ。

この階には朱伎の執務室があり、四聖人たちの執務室がある。機密性の高い会議や重要な任務についての打ち合わせをする会議室がある。


5階は朱伎の住まいがある。住まいと言っても寝るだけの部屋があるだけだ。朱伎は食事も下の階で済ませるため、寝るために帰るくらいだった。

そして5階は里に重要人物が来た時の宿泊施設としての役割も持つ。重要人物を護るためにこれほど適した場所はない。


他にも《扇央の塔》には大きな役割があり、隣には学校が建ち、2階の渡り廊下でつながっている。何か起こった時に、まず里の子供たちを護るために学校は隣にある。

里の中で《扇央の塔》と学校が一番安全な場所と言える。


3人は《扇央の塔》の4階のバルコニーにいる。

この場所に朱伎がいることは何の不思議もないが、伯と旭陽は本来ならこの場所にいることは許されない。2人は4階に入る許可を得ていない。

だが朱伎は怒ることも諫めることもなく、2人の立ち入りを許可した。


朱伎の結界の中なので許可と言っても、受け入れたというだけで済む。朱伎の許可がなければ2人は、この場にいることもできなくなるだろう。この階から出ることもできなくなる。

ということを2人の子供たちが知ることになるのは、もう少し先のことだ。


朱伎は子供たちを怒ることはしない。子供に簡単に入られてしまうことが問題だった。むしろ2人の賢さに感心した。よく入ったと褒めてやりたい気分だった。





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