第2話 継がれるもの(2)

 カレの棲む場所は神の宿る山「神麓山しんろくさん」。亡くなった者のたましい神麓しんろくに導かれ、この地へやって来る。すべての生命いのちがこの世での旅を終えると魂となりこの地まで四十九日の旅をする。安らかに眠るためにこの地まで旅をする。

 安らかな眠りにつけない魂もある。この世に強い未練を残した魂は旅の途中で彷徨さまよってしまうことがある。この地へ来ることを拒む魂もある。旅の途中で彷徨ってしまった魂は【かげ】となり、この世へ戻ろうとする。強い想いや未練だけが魂を【影】として動かしていく。【影】は、この世での記憶の中の欲望のままに動く。

【影】は人間の身体を奪うことができる。身体を奪われた人間は徐々に意識も奪われ、いずれはその魂ごと奪われてしまう。魂を奪われた身体はただのうつわとなる。だが器に見合わない人間の身体はいずれ朽ち果て魂もろとも消えてしまう。だから【影】は自分に合う強い身体を探し求め続ける。


 この地は厳重に隠されている。先人たちの知恵により何人なんびとも入ることのないように幾重いくえもの結界けっかいにより護り隠されている。この地から何も出ることのないように護られている。カレはこの地から【影】がこの世に入り込まないように見張る番人だ。この世との境を独りきりで護っている。

 カレはこれからも変わらず終わりのない旅を続けていく。終わりのない旅を続けていくようなものだ。いつの日か、カレにも希望があることを願う。



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