異世界転生における最もなチートとは

 泣いては疲れて眠るを繰り返すしか出来ない男も,ある程度時間を置けばいい加減受け入れる事もできるようになっていた。いや,正確には諦めた。どれだけ男が否定しようが実際に転生の様な事が起きているのだ。仮にこれが夢だったとしても,匂いも感触もある夢なんて過去に聞いたことが無かった。なんなら,漏らしてしまった感覚が嫌でも現実だと男へ訴えかけている。

 男がある程度自身の感情と折り合いをつけたのと同時に次に考えたのはチートの有無だった。

 チート,ゲームの進行にかかわる内部的なデータを改変することや,騙す、欺くこと。コンピュータゲームにおいて,広義には制作者が意図しない方法や結果により使用者が意図的に公平性を損なわせる行為のこと。狭義には,コンピュータゲームにおいて優位に進めるための(バグ等を用いた)不正行為またはハッキング行為のこと。

製作者が意図して組み込み・公開した機能は仕様でありチート行為とは称されない,非公開機能や仕様バグ,実装バグを用いた「バグ技」はその名の通りチート行為である。(Wikipedia引用)

 男が転生する前のオタク界隈では異世界チートという使い方ではプラスな捉え方,ゲームでは相も変わらず否定的な意味で使われている。何が言いたいのかというと,仮に男にチートがあったとしてそれが世界へ多大な影響を与えるものなのか。それが気になったのだ。世界の根幹へ悪影響を与えるような能力なのか,異世界転生などである埒外な力なのか。前者であれば,無暗矢鱈に使うものではない。後者であれば,出力の調整のためにも早めからの訓練が必要だ。

 未だ赤子ではあるものの,男の知る創作物では大体力に目覚め周囲の人間の度肝を抜いた。男は無意識に,自分も同じ立場であると考えてしまっていた。転生しても,能力を持たない創作物があること等,微塵も考えていなかった。なにより,この男は異世界小説は嗜むが英雄譚等は全くで,某運命のゲームで英雄の名前を知っているくらいでその最期を知らなかったりするため。強大な力を持った結果を想像できていなかったのも問題の一つであった。

 兎も角,男は最初は力んだり手を開いたり閉じたりしていた。言葉にもならない呻き声上げたこともあった。しかし,成果は無かった。なんなら,力んだせいで悲惨なことになっていた。

 如何にかポジティブに捉えて精神の均衡を取ろうとしていた。チートなんてその最もたる例だ。芳しくない結果から,男は成長してから発動するタイプのであると考えることにした。そして,ある程度自身で動くことが出来るようになるまでの数年をあるかもどうか分からないチートへの妄想に費やすこととなった。

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