第3話 超魔法

 咲と二人で街を出る。

 相変わらず門番はやる気が無さそうで、適当に挨拶して通過した。

 

 山を抜ける街道沿いの谷に住み着いたバジリスクを退治するという依頼を受けた。

 バジリスクは強力な魔獣だが、咲のステータスなら簡単に退治できそうだ。


「装備が何も無いけど大丈夫なの?」

「たぶん、今のアタシの力なら、その辺の棒で楽勝だと思う」

 その辺の棒っ切れで強力な魔獣を倒せるというのも、あのレベルカンストしたような桁違いのステータスの成せる業なのか。


 しかし、バジリスクの住み着いた谷って何時間くらい掛かるのだろ?

 腹も減ってきたしどうしたものか……


「ハル、誰か倒れてる」

「えっ、まさか行き倒れ?」

 道の隅に倒れた人がいる。

 急いで助けに向かう――――


 あれ、どこかで見たようなシルエット……というか……あいちゃんだろ。

 行き倒れていたのは、一緒に転移した同級生の羅刹あい、通称あいちゃんだ。

 オレンジっぽいハイライトが入った目立つ髪に褐色の肌、胸の谷間が見えまくってる露出度の高い服、ギャルっぽい見た目がちょっと怖そうに見えるけど、実際はフレンドリーで話しやすい人だ。

 スキンシップが過激な所は、ちょっと困った人なんだけど。


「あいちゃん!」

 オレは倒れているあいちゃんを起こす。

「あれ……はるっちのまぼろしが見える……」

「あいちゃん! 大丈夫?」

「お腹……空いた……」

 えぇ、空腹で行き倒れていたのか?

「はるっち……美味しそう」

「オレは食べ物じゃないですよ」



 あいちゃんと合流出来て三人になったけど、こちらに転移してから何も食べてないから腹が減っていた。

「普通は異世界に転移したり召喚されたら、こう神とか支配者権限とか何かが出てきて、特殊スキルとか装備とか与えるもんじゃないのか!」


「ハル、誰に話しかけてんだよ」

 咲につっこまれた。

「仲間と合流出来たのは嬉しいけど、ハルと一緒に寝る予定だったのが……」

 横で咲が意味深な事を呟いていて、こっちまで恥ずかしくなってくる。

 声が漏れてるのに気づいているのだろうか?



「そうだ、あいちゃんのステータスも確認させて」



 職業:魔法使い

 レベル:120

 HP:1,100,000

 MP:3,200,000

 攻撃力:12,000

 魔法力:75,000

 防御力:18,000

 素早さ:11,000

 スキル:暴虐轟雷Lv.10 阿鼻叫喚Lv.10 大焦熱Lv.10 鬼火Lv.10



 何だこれ……

 こんなのバランスブレイカーなのでは?

 それに、恐ろしい名前のスキルばかりだ。


「こんなに強い魔法使いなら、飛行魔法なんかで空を飛んでいけないのか?」

 あいちゃんはステータス情報を確認している。

「あった、魔法は他にも色々あるみたい」

 もう、何でもありだな。



飛行フライ

 それっぽい魔法をかけて三人で空を飛んでいる。

 ここまでくると現実感が無くなってきそうだな。



 街道沿いにしばらく飛んでいると、荷馬車がモンスターに襲われているのが見えてくる。

「よし、助けよう。行商人みたいだから、助ければ食べ物を分けてもらえるかも」


「よぉーし! うちの魔法で! 向こうの世界だと怖くて呪力使えなかったけど、こっちならモンスター相手に思いっきり使えるよ」

「ちょっと待った。魔法だと商人まで巻き込みそうだから、咲にお願いしよう」


 道に降りてみると、行商人の荷馬車がゴブリンに襲われていた。 

「ゴブリン初めて見た」


「じゃあ、ちょっと行ってくる」

 咲は、その辺に落ちている木の棒を拾うと、ゴブリンに向かって走る。

「よし、神速剣!」

 咲がそう叫ぶと、その姿が閃光のように煌き、光の軌跡きせきのような物を残した後に、真っ二つになった数体のゴブリンが転がっていた。


「凄い! かっこいい!」

「えへへっ」

 オレが褒めまくると、咲がテレてニマニマしている。



 助けてあげた商人から食べ物とお金をお礼として受け取り、バジリスクが出没したと噂になっている場所も聞いた。

 そして、その近くまで来たのだが――――



「今度は、うちがやるから」

 あいちゃんが、やる気になっている。


 丘の上から谷を挟んだ反対側にバジリスクが居た。

 かなり大きくて強そうだ。

 ギルド受付嬢の話だと、バジリスクは並大抵の兵士では集団でも難しいほどの強い魔獣らしい。

 咲のステータスを見て、これなら勝てると高額報酬の依頼を受ける事が出来たのだ。


「一発でやっつけるから見ててね」

 そう言うと、あいちゃんは魔法を放つ為に集中する。

「うーん、狙いをしぼって…… 大焦熱!!」


 突如、山の中腹に白い球体が出現し、眩い光を出して拡散したかと思うと、少し遅れて轟音と熱風がやってくる。

 ズドドドドドドドドドドドドドドドドォォォォォ!!!!!!

 ゴオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!

 超高熱の火球はバジリスクどころか山をも溶かし、マグマのようにドロドロになった大地が周囲の木々を飲み込んで行く。


「え、え、えっ」

 どんどん大地が溶けて地面が飲み込まれて、オレ達の立っている丘まで崩れ始める。


「危なっ! 熱っ! 逃げないと!」

 ギリギリのところで飛行魔法で空を飛び難を逃れた。



 爆発が収束した跡が、まるで隕石が落ちたクレーターのように大穴が開いている。

 山が消えて地形が変わってしまった――――


「えーと……あいちゃん、やりすぎ」

「だって~ うちも、はるっちに褒めて欲しかったんだもん」


 これ……一人で一国を滅ぼしそうな勢いなんだけど――――

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