第20話 紛争ぼっ発

 10月2日、午前3時、尖閣にある宿舎の窓から、駐在官君田はヘリポートを見ていた。

「来た!」つぶやき、「おい、鎗田君、行くぞ」部下に声をかける。

 二人は大型のリュックを背負って、急いでヘリポートに向かう。来たのは反重力エンジンを積んだ、しでん連絡機である。


 ほとんど音はしないが、着陸した機から声がかかる。

「君田2尉と鎗田1曹だな。乗ってくれ。すぐ出発する」


 乗ってからパイロットが言う。

「私は永田2尉だ。すこし上空待機する。ミサイルの映像を撮りたいのだ」


 機は上空に静止する。しばらくして、「来た!ミサイルだな」永田が言う。


 確かに、かすかに黄色っぽい光が3つ見えて、みるみる近づいてくる。間近にきた瞬間、長細い槍状の物体から光の線を引いていることがわかる。それはあっという間に通り過ぎて、島に突き刺さって、夜の闇の中で赤々と爆音と共に爆発する。

 しかしそれは、島には当たったが、最も近いものでも宿舎には100m以上離れており、あまりいい狙いではない。


「撮影終了。これで先に手を出したのは向こうっと」

 パイロットが言ってそれを送る。その映像は直ちに防衛本部着信して、あちこちに再度送られる。


 空母ひゅうがで、臨時編成の尖閣防衛群司令官の中道海将は、スクリーンを眺めてひとりごちる。

「東海艦隊の現状位置は島まであと50㎞か。艦隊は2㎞の範囲に散らばっており、駆逐艦12隻、フリゲート艦12隻、兵員輸送船1隻及び空母“南海覇王”で、情報通りか。“南海覇王”、あまりいただけない名前だな。今日沈むだけに。これを中心に輪形陣か」 


「敵艦隊ミサイル発射です!」観測士官が叫ぶ。


「お、ミサイルを撃ったか。官舎向けてだな」

 中道は自分のスクリーンを見てつぶやき、結果を見て今度は声に出して言う。


「島には当たった。しかし宿舎には当たらずだね。へただね。交戦条件はちょっと微妙だね」


 それに、艦長の真田一佐があいづちをうつ。

「ちょっと無理ですね。あえて宿舎を避けたといいますよ」


「うん、航空部隊も近づいているね。あと200㎞足らずか。最初に撃たせるためにすこし刺激しよう。いまから、無線通信をしてくれ。その前に、艦載の改F4を発艦させてくれ。」中道は命令する。


「南海艦隊および、近づいてくる50機編隊。こちらは日本国自衛隊、護衛艦ひゅうがである。直ちに引き返せ、君たちは日本の領海を犯そうとしている。引き返さない場合すべて撃破する」

 艦長が放送すると、続いて、無線担当官が中国語でくりかえす。


 東海艦隊の旗艦空母“南海覇王”の艦橋で、司令員王中将は日本艦からの送信を聞いて笑った。空は、明るくなってきた。

「撃破だと!笑わせる!小日本が!殲滅11を5分後に発艦させろ、さらに空中の編隊にミサイルを2分後に撃たせろ。まず積んでいる4基中2基だ。また、艦載のミサイルも各5発、時間を合わせて撃たせろ。計220発のミサイルには対応できないだろう」


 ひゅうが艦橋の観測士官が叫ぶ。

「司令、編隊および艦から撃ってきました。合計220本です」


「交戦基準クリヤー、上空待機の“F4改しでん突っ込み敵を撃破しろ!ゆきかぜ、しらゆきは防空レールガンを適宜打て。データを取れたら大口径レールガンで敵艦を沈めていいぞ!」中道の命令だ。


 ゆきかぜ、しらゆきは、対艦ミサイルを防げる重力エンジンによる力場バリヤーを張れるので被害担当艦として、10㎞ほど先行している。

 両護衛艦は各4基の防空用レールガンを打ち始めた。防空レールガンは各1秒間に300gの弾、秒速5㎞の発射が可能で、精密レーダー連動で船の動揺を打ち消すソフトが組み込まれている。


 距離10㎞程度で、径200㎜×長さ2m以上のミサイルだと百発百中だ。6インチ砲弾は20㎞以内であれば必中距離になる。


 殲滅11の編隊長の楊上佐は、思わず目を見張った。黒い機体があっという間にすれ違った。それらは、ガトリングガンの火を振りまいて通り過ぎる。


 たちまち編隊のうち、15機は火に包まれ、あるものは爆散する。楊はとっさに機をひねったので、当たることはなかった。しかし、さらに進むと周囲の僚機が1機また1機と爆散する。


「撃ったミサイルはどうしたのだ」思わず楊上佐は叫ぶ。


 しかし、明けてくる海に見える、先行する2艦を含む敵艦隊は一切被害の様子はない。気が付くと、残った味方の殲滅11は自分ともう1機、そこへひどいショックあり、自機が分解するのが一瞬見え、意識が途絶える。


 東海艦隊の王司令員は狂いたっていた。

 合計220基打ち放ったミサイルは、日本艦隊に全く被害を与えることがない。さらに追加でありったけのミサイルを撃ったが、同じである。どうもレールガンで迎撃されているようだ。


 一方で、噂のレールガンが味方の艦にどんどん穴をあけ、艦からは火を噴きだしている。突然、3隻ほど先を走っていた駆逐艦が大きく揺れ、船腹から火が吹き出した。魚雷だ!


 しかも、上空に黒い航空機がばらばらに近づいてきて、なにかを切り離す。ミサイルだ。それは火を噴いて、東海艦隊の8隻の艦にほとんど同時に当たり、巨大な爆発を生み出す。さらに、別の編隊が近づくとまた爆発が起きる。爆発する艦は今度は6隻だ。


 味方も、近くに見える日本の艦に盛んにミサイル・砲を打っているが、ミサイルはすべて撃ち落とされ、砲弾も撃ち落とされるものがあるが、かなりは当たっているはずなのに、なにも効果がない。どうも、日本の艦はうっすらと膜に覆われているように見える。


「くそ!また日本の新技術か!」


 突然、8万トンの南海覇王が大きく揺れた。魚雷だ。さらに、1回、2回!

 内部で爆発音がする。突然、快調に走っていた船体が、ガク!と止まった。見る間に、艦が傾いてくる。繫止していた3機の航空機が滑り落ちる。突然、レールガンの弾が艦橋を貫通し、内部めちゃめちゃにして、そこにいた王司令員を始め要員を殺戮した。


 旗艦空母は、10分間浮いていたが最後は大爆発を起こして爆沈した。そしてその時には、南海艦隊で残っていたのは兵員輸送船のみで、それは白旗を掲げた。


 中国首脳が集まる東南海会議室、東海艦隊司令部から連絡が入る。

「魚釣島に向かった東海艦隊が日本自衛隊の攻撃を受けて全滅しました。また、2派の殲滅11を中心とした編隊も同じく全滅しました。兵員輸送船のみは、降伏して残っております」


 各メンバーはしばし無言でお互いを見返す。

 これが、どれだけまずい状況か彼らはよくわかっていた。国内の暴動はもう抑えられないところに来ている。それを小日本に勝つことで、抑えようとした目論見は逆になってしまった。


「しかし、我々には第2砲兵がある!50発の弾道ミサイルで日本を焦土にしてやる!」


 軍事委員の白が叫ぶ。

「ばかな!今の時代で、核ミサイルで核を保有していない国に打ち込むなど、自殺行為だ」

 別の出席者が叫び、中はわめきあいで収集がつかなくなった。


 主席の唐が大声でいう。

「だまれ!海戦で負けたことは事実で変わらない。これをどうするかだ。

 たしかに、いま我が国に残されたのは第2砲兵のみだ。小日本は弾道ミサイルを撃ち落とすというレールガンをすでに地上に10基配備している。

 だが、レールガンと言えど地上から撃った弾丸がミサイルに当てるほど精度を保てる訳はないというのが、科学者の見解だ。

それに、我が国の弾道ミサイルは今白が言ったように50発あり、このうち20発を日本に向けられる。これをすべて撃ち落とせるわけがない。白、すぐに発射準備を命令せよ!日本あてに通信の準備をせよ。直接、日本あてに国民にも聞こえるように放送する」


「ばかな!使えるミサイルを全弾打ち込んで、そのあと、アメリカ、周りのインドにどう対抗するのですか、アメリカが、黙っているわけがない」

 軍事員の周が反対する。


「ふふん、アメリカはすでに日本を敵視している。彼らが自分が傷つくのを覚悟してまではなにもするわけがない。当然、本土へ核を撃つというのは脅しだ。小日本がこの脅しに耐えられるわけはない!」


「そんな子供だましが通じるものか!」周が吐き捨てる。


「だまれ!主席は私だ。私に従え」


 1時間後通信士の連絡がある。

「主席、通信準備ができました。すでに日本の主要なマスコミには、主席が重要な発表をすると伝えています。今、省日本は主席の言葉を待っているはずです」


「よし」唐は腹に力を入れて話し始める。


「親愛なる日本国民よ。私は中国主席の唐である。

 貴国の自衛隊は本日我が国の領土である釣魚群島、日本名尖閣列島において、我が国の艦船および航空機を破壊して、2千名以上を無残にも殺戮した。これに対して、私は報復として核ミサイル20基を日本の主要都市に向けて発射することを命じた。

 これは2時間以内に発射される。しかし、私も指導者は別として一般の人々を犠牲にすることは本意ではない。1時間以内に、日本政府が降伏するのであれば発射を止める。

 指導者は、拒むかもしれないが、国民すべてが反対すれば彼らも拒めないであろう。我が大中華の元で幸せになろう。諸君の賢明な決断を期待する。今から、1時間後午後4時までに日本政府が降伏の連絡をしない場合、核ミサイルは発射される」


 後に世界から軽蔑され、あざ笑われた唐の演説であった。聞いていた、周をはじめとした首脳の数人は頭を抱えて座り込んだ。


「聞きましたね」加藤首相が閣議のメンバーを見渡して言う。

 御蔵防衛大臣が答える。

「はい、ではヤマトに破壊措置命令を出します」


 数分後、中国上空150㎞の上空に待機していた、ヤマトは日本向けの狙いをつけているという吉林省のミサイル基地に、2基のレールガンから径100㎜の弾を各5発ずつ10発打ち込んだ。


 さらに、時速1万㎞で山西省の基地に向かい破壊し、次に湖北省、福建省、四川省、最後に雲南省の基地に10発ずつの弾を打ち込んだ。いずれもその巨大な運動エネルギーによって地上で爆発を起こして基地は機能を失った。


 しかも、場所によっては弾頭の高濃度のウラン235またはプルトニウムの容器が壊れたので臨界量を超え、核爆発は起こさなかったものの強烈な放射能と連鎖反応による高い熱を発し、半径数㎞は当分人を寄せ付けない不毛の地となった。


 尖閣諸島については、午前8時には戦いは終わり、空母を始め25隻が全滅、兵員輸送船のみは白旗を掲げて降伏した。殲滅11の50機ずつ2派の100機の編隊も全滅した。


 海上に投げ出されて救助された中国兵は、海兵が250名、航空兵はわずか5人であった。結局、中国兵の戦死者は2千4百名に上った。核ミサイル基地の破壊による死者は、3千人程度とされるが定かではない。


 ちなみに、日本に向けた唐の演説であるが、あまりの内容に聞いた全員があきれ果てた。しかし、核ミサイル20発というのは冗談ごとではない。大騒ぎになって、A新聞をはじめとしてM新聞や様々な地方新聞が騒ぎ立てた。


 さらには、「だから、中国と戦端を開くということはこういうことだ。降伏しよう!」と騒ぐ連中もいた。

 しかしそれは、少数派であり、多くは大丈夫だという政府の発表を信じていたし、「中国もそれをやれば、地球に生きるところはない」とある意味で開き直っていた。


 とは言え、その後1時間もしないうちに、加藤首相からの中国のミサイル基地は全滅したとの報告に、全国民は心からほっとした。A新聞、M新聞をはじめとする融和勢力と言うより中国におもねる勢力の信用が、さらに落ちた瞬間だった。


 一方で、すでに西側から中国に鞍替えしていた韓国は、中国からたきつけられて、どさくさまぎれの対馬侵攻をねらったが、当然これは自衛隊に計画を掴まれていた。 韓国軍は、対馬市の西部の韓国よりの一帯に、まず空挺部隊2千人による落下傘降下を行った。


 自衛隊は、諜報機関によって降下地点をつかんでおり、一帯の住民はすでに避難済みであった。韓国軍は、旧日本軍のミッドウエー戦と同じで、空挺部隊の基地がある大田では、対馬を攻めることと、さらに降下地点まで噂になっているため、情報取集は容易である。


 そこで、降下を待って、風上から対テロ用として開発された睡眠ガスを流す。ガスマスクの用意のない空挺隊員は10分もせず全員が眠り込んだ。


 一方で、韓国軍は虎の子のイージス艦2隻、駆逐艦3隻に守られた兵員輸送船3隻で、5千名の兵員が乗っている艦隊が対馬に近づいていた。その艦隊では、日本の自衛隊は、遠く離れた佐世保と舞鶴に集結しており、特に動きがないことをいぶかしく思うものもいた。


 だが、その者たちも都合がいいことなので幸運と思っていた。しかし、イージス艦の見張り員が、空から黒い機体が数機、音もなく近づいてくるのに気が付いた。これらは、全くレーダーに映らず噴射もない。


 慌てて、バルカン砲を撃とうとするが、すでに通り過ぎており、何かを落としていく。爆弾だ!どーんという爆発であたりの兵は跳ね飛ばされるが、威力はそう大きくはない。しかし、黒い航空機は乱舞して、どんどん爆弾を落としていく。


 結局、イージス艦、駆逐艦は上部構造物をめちゃめちゃにされて、戦闘能力を失ったが、機関は生きているという状態になった。そこに、猛烈な速度で自衛艦(ゆきかげ型のはくさん)が近づいてくる。これも、目視できる距離に近づくまで、探知できない、ステルス艦だ。

 司令官の朴少将が「まだ、潜水艦の独島がいる。あれが、撃沈でしてくれるだろう」と言ったとたんはくさんが海面めがけてレールガンを打ち込む。


 3㎞ほど先の海面がまくれあがって、巨大な水蒸気爆発が起きる。そのなかに横倒しになった、黒い流線形のものが浮いてくる。

「ああ、独島が!」朴少将は悲痛な声で叫ぶ。


 同時刻、日本名竹島に向かって、海上保安庁の巡視船が近づく。

 竹島の韓国保安隊駐屯所では、必死に無線機で本土と連絡している。


「日本の巡視船が近づいている。急ぎ、追い払うための軍艦と航空機を送れ!」


「だめだ。できない。国境線には日本の重力エンジン戦闘機がはりついている。こっちの戦闘機は送れない。あっという間に撃墜される」


「軍艦は?」


「いま舞鶴から、日本の艦隊が出航した。こっちの艦隊は間に合わない」


「では、俺たちに死ねというのか!」


「日本は、中国と違っていきなり砲弾は打ち込んでは来ない。出来るだけ時間稼ぎをして、救援に行くまでの時間を稼げ!」


「救援は来るんだな!」


「独島は国民の対日本のシンボルだ。もちろん、送るに決まっている」

 そう言った担当員は「であればいいがな」とつぶやく。


 実際に、韓国側に竹島の駐在員を回収するすべはない。

 すでに、対馬に向かった艦隊は、すでに見逃されている兵員輸送船以外はただの浮かぶ残骸だ。空挺部隊とも一切の連絡を取れないところを見ると、戦力として残っているとは思えない。


 韓国側も、国境周辺を日本のステルス機が飛び回っており、何機か飛ばした航空機がすべて撃墜されたのは承知しており、これ以上の損害は増やせないというのが正直なところである。


 竹島に関しては、長年のマスコミの刷り込みとそのことによる国民の執着もあり、そう簡単に日本に奪回を許してはいけないということは理解していても、なんともしようがないというのが正直なところであった。


 巡視船は島に近づくと問答無用で、催眠ガスを発生するガス弾を打ち込んだ。

 その後、海保隊員が上陸して、眠った韓国人を確保する。幸い、島には韓国の巡視艇が係留しており、眠っている隊員を収容する能力があったので、人員を詰め込んで海保隊員が操縦する。


 10㎞ほど沖に自走して、操縦した海保隊員は並走していた日本側のボートに移る。その間、海保隊員は韓国の建設した施設に爆薬を仕掛け、早々に島を去ったのち爆破する。


「あんな島に、人員をはりつけるなど冗談ではない。今後、韓国が施設を作れば直ちに破壊します。韓国がどう言おうと竹島は日本の領土です」

 加藤首相の言葉である。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る